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中長編小説

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2020年1月の記事一覧

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 8(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 8(中編小説)

9. 外へ

咲菜がトイレから出ると、ベレー帽を斜めにかぶり、真っ白なモッズコートを来た婦人が背筋を伸ばしてゆっくりと通り過ぎた。
追い抜きかねて咲菜は仕方なく後をついて歩く。
カフェからはカバンを小脇に抱えた大きな黒ぶちめがねの小柄なご婦人が出てくるのが見えた。さっきまで咲菜たちの会話を咎めるような目で見ていた老婦人だ。
「あら」
「まあ」
ベレー帽の女性は立ち止まって、黒ぶち眼鏡のご婦人と立ち

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 7(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 7(中編小説)

8. 葬儀

真亜子ははっきりと覚えている。

「叶江ちゃん…本当に、本当にいい人だったわね、あんた幸せね」
咲子おばさんが涙を押さえながら叶江の前に手をついた。
小柄な背中を丸めている咲子の前で叶江は化粧の上からでもわかる真っ白な唇を左右に結び眉をひそめ、周囲を見渡していた。

「運ばれた時にはもう遅かったんですって」
「そんな死に方、男らしいわ。介護もせずに、生活出来るだけの準備は残して…叶江

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 6(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 6(中編小説)

7. 奔流

「え、それで叶江おばさん、会社がつぶれても別れなかったんだ」
「騒がなかったの?」
「騒いだよ」
「騒いだんだ。そりゃそうか」
「でもね、おじさん相手だと喧嘩にならないんだよね~」

放漫経営と先々代から続く散財で、再建の見込みはまったくなかったが、花実は素直に現実を受け入れた。
花実は派手で美しい妻におずおず伝えた。
「あのね、僕は相続放棄しようと思うんだ」
叶江はまるで興味なさそ

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 5(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 5(中編小説)

6. 溶け合う時間

西条花実は控え室のパイプ椅子に座って頭を落としていた。ぶらぶらさせている足元のタキシードのすそはもうひきずっていない。
さっきまで高揚していた気分は、また風船がしぼむように花実から抜け出てしまっていた。
逃げ出したい。ここから。すべてから。

男ぶりが評判の叶江の従弟は、来なくてもいいのにこんな衣装あわせの場にまで押しかけてきて言う。
「おじさん、叶江ちゃんが可哀想だよ」

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 4(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 4(中編小説)

5. 2019年 女子会とコイバナは続く

「さきなちゃんあたしそれめっちゃ興味ある。いったいどこで知り合ったの?」
真亜子はぐっと体を前に突き出して咲菜の方に体を乗り出した。
着物を着た小柄なおばさまがた二人が店に入って周囲を見回す。普段から着物で生活している人でなければ出せない物腰でレジに向かった。
「知り合ったのは普通に友達の友達だよ。一緒に遊んでる子たち」
その彼はお世辞にも整った顔立ちと

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 目次(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 目次(中編小説)

1. 1977 昭和52年の百貨店

2. 2019 令和元年の雑居ビル(1に同じ)

3. 2019 令和元年の女子会

4. 1977 昭和52年のホテルの一室

5. 2019 女子会とコイバナは続く

6. 溶け合う時間

7. 奔流

8. 葬儀

9. 外へ

10・ モノクロームカフェ

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 3(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 3(中編小説)

4. 1977 昭和52年のホテルの一室

四十年後にれいらと咲菜が待っていたのと同じ席に女性が二人座っていた。一人はこれでもかというほどのミニスカート、一人はブーツカットのジーンズでいる。席はフロアのほぼ真ん中、入り口からもレジカウンターにも近く、すべての席から見える位置にある。
二人とも口を閉ざしたままティーカップをかき混ぜている。
「咲子、ちょっとどう思う。かなえちゃんの相手」
ジーンズの彼

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 2(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 2(中編小説)

3. 2019 令和元年の女子会

店は賑わっていた。
黒服の少女が足早に店内に入ると、テーブル席はほとんどが埋まっている。
こんな奥深く探しても迷うような場所に、誘導の看板も出ていないのにどうして?と疑問に思うほど混んでいる。ざわめく人の声があちらで高まりこちらで静まりとめどなく続いていた。軽快なジャズが流れ、壁にはウォーホルが飾ってある。
ほとんどが女性客だった。

一つのテーブルで手を振る姿

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モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 1(中編小説)

モノクロームカフェ またの名を、ちびブタ彼女とその一生 1(中編小説)

otonarikaminariさんに
また、Twitterで私の探していた本を探してくださったり、RTしてくださったり、いいねしてくださったり、気にかけてくださったすべての方へ

1. 1977 昭和52年の百貨店

コンクリートの階段にヒールの音が突き刺さる。
トントン、トントンと軽快な音がして、階段を小走りに駆け上がっていたその女性は少し止まってかかとに触れた。
それだけでもう人が振り返る。踊

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