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20年もののワンピース

アニエスb.の夏物のワンピースをかれこれ20年ほど着てる。
高校時代のある日、母親にデパートで買ってもらったもの。
今でも何故か、そのワンピースを試着して購入するシーンや、その時のお店のレイアウトまで鮮明に覚えてる。そのワンピースはショップの入り口にぶら下げてあり、当時のわたしからすると、ちょっと「ださいなぁ」と感じる、丈が長めの濃いブルーのチェックのデザイン。試着してみると首回りがすこし深めで胸がちらりと見えるのも恥ずかしくて、中に着るキャミソールも一緒にお店の人に見立ててもらった。「あまり好きじゃないからいらない。着たくない。」と、何度もわたしは母親に言ったのだけれど、母親が「とても似合っているから買って帰ろう」と、言い購入してもらったワンピース。

それから20年。結果、毎年毎年、着続けている。
背後が全てボタン止めになっているデザインで、何回かボタンがとれて直したり、スカート下の方のボタンを自転車の車輪に引っ掛けて布が破れてしまって直した事もあるけれど、着続けている。やっぱり今でも「好きなデザイン」というわけではないけれど、夏が来て、クローゼットを開けて、「今日はどの服を着よう?」と考える時、ふと取ってしまうワンピースになってる。

高校3年生の夏休み、このワンピースを着て友達と、研究所の夏期講習に行った。とても日差しが強くあっつい日で友達と二人、土地勘の無い場所で大きな荷物を抱えてうろうろした。デートにこのワンピースを着て行ってデートした相手と手を繋いだ。どの場所でどうやって手を繋いだかまで覚えてる。社会人になってこのワンピースで休日出勤をした。土曜日の暑い日で、どんな仕事で、何をしたのかも覚えてる。

そう思い返してみると、このワンピースと共に過ごした思い出の細部を割と記憶している事に驚いた。「物には記憶が宿る」ってこういう事をいうんだなぁと改めて実感した。ここまでくると、このワンピースを着た時に湧き上がる記憶や感情を大切にしているのかな?と思えてくる。それ自体はとてもプライベートで誰とも共有はできないのだけれど。デザインだけではなくて、物に記憶を宿らせる行為を重ねることによって愛着はかなり生まれるのだなぁ。と感じたので「記憶の宿らせ方」は面白いかもしれない。その物に記憶を宿らせよう。なんて、意識してはできない事なんだけれど。

そういえば、昔、祖母に「石にはその場所の記憶が宿っているから持ち帰ってきてはいけない。持ち帰ると、石の記憶まで家にもってきてしまうよ。」とよく言われた。私は何でも道に落ちているものを拾い、持って帰ってくる子供だったから、そう言っただけかもしれない。そう何度も言われて、子供ながらに石に対して凄い恐怖心と興味が芽生えた事をおぼえている。20年もののワンピースから、石の話に飛んでかなり飛躍してしまったけれど。この20年もののワンピースはわたしにとっては、石みたいに、たくさんの記憶を体に持ち帰ってしまう不思議な存在。

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