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ささやかな日常に奇跡は隠れている

変な時間に目が覚めてしまった。
頭上の目覚まし時計に手を伸ばす。
2:30
薄明かりの天井を見つめていても、昼あった些細な気がかりに思いを巡らせるのがオチだ。
しばらく寝返りを繰り返したが、諦めて寝床を離れることにした。
キッチンでコップに麦茶を注いでいると、猫がふくらはぎにそっと脇腹を擦り付けに来た。
冷たい麦茶を喉に流し込み、しゃがんで頭を撫でてやる。もしゃもしゃと顎の下を指先で掻いてやると目を細めて小さな額を押し付けてきた。
ここ数日、夜は随分と涼しい。ソファに腰を降ろし、さっきみた夢を想う。この夢もあと数時間後には、きっと朝日に紛れ、跡形もなく記憶からなくなってしまうのだろう。
薄暗い部屋の片隅を見つめる。
なぜあの人が現れたのか。
夢の中で会話を交わしたのは憶えているものの、何を話したかはもう忘れてしまった。
冷蔵庫のモーター音を聞きながら、記憶にある感触をそっと確かめる。
遠い昔、見上げた青空とイチョウの葉の眩しい黄色。
あの時は、そんなものだと思っていた。これはこの先もあるに決まってる。この風景は、ありきたりな一瞬だと。
奇跡はいつもささやかな日常に隠れている。眼差しや声の湿り気、さらっとした体温。
そのただ中にいる時、その幸せに気付くのは、いつもそれが思い出になってからだった。
猫がソファに上がってきた。左手で頭を撫でながら、あくびをする。


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