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映画『PERFECT DAYS』

映画『PERFECT DAYS』を観てきました。
素晴らしい映画でした。
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映画を観て体感として感じたものは、たとえるなら、机の角を指先で触る瞬間的刺激的な暇つぶしじゃなくて、掌と指、爪の感覚すべてで、机を触る、知る、感じるその「面」としての時間。日常。
そこには「角があるから四角い机」と、刺激的に短絡的に瞬間的に目の前のことをとらえていては知ることのできない、質感や凹凸、温度、空気の移り変わりが、日々、瞬間瞬間にとらえられ、微細なはずのものが余りにも豊かに存在していた。

なんて意味の分からない感想なんだと思われているかもしれないけれど、この映画を観て感じたその体感は、言葉を尽くせば尽くすほど表現できなくなる豊かさがあった。

映画の構成として描かれる「繰り返す日常」が、決して「繰り返し」ではなく、日々、瞬間瞬間に変化している。その変化を主人公が感じ知っていることを、映画そのものが教えてくれる。
その日々の中では、ふとした鼓動の弾みも、鮮やかな赤色にすら見えた。
光と影だけの景色も、彼のちょっとした表情も、驚くほど鮮やかで、今この瞬間だけのものでありながら、時間的奥行きすら見えてくる。

「慎ましい生活」とは違うのかも知れないけれど、決して派手でも刺激的でもない日常が、こんなにも豊かで鮮やかに見えた映画は、これまでで初めてかもしれない。
役所広司さんの表情が何よりそうさせていたように思う。

冒頭に書いた「机を手で触る」ではないけれど、本を掌で読んだような映画だったなぁ。

彼の様に生活ができたらと憧れるけれど、今の私は彼の様にはできない。
でも、映画を観た帰り道、エスカレーターを上がる時の私の足音、私の前の人の足音、その前の人の足音を聴いた瞬間、すれ違った中学生の「大人っぽくなりたいねんな」の一言に思わず微笑んだその瞬間を、いつもよりちゃんと感じられたとき、とても満足だった。

不潔恐怖がある私はトイレが苦手ゆえ、この映画を観るのを渋っていたけれど、やっぱり観て良かった。

映画の中で、思わず木漏れ日に会釈する瞬間が一番たまらなかったなぁ。



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