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地域社会との繋がりと「母親」な自分

4年前に長男を出産してからあっという間に気が付けば三児の母となり、私の世界は一変した。生活スタイルが変わったのはもちろんなのだが、最近特に自分が住む町の人達とあいさつをしたり、コミュニケーションをとる機会が増えたように感じる。

今住んでいる家は結婚してから移り住んだところなのだが、夫と2人で暮らした期間は1年と10か月ほどだった。当時の生活と言えば、平日は会社で週末は友人と飲みに出かけているか、昼頃まで寝てひたすらのんびりしているか。たまに親しい友人を招いてホームパーティを開いたりもした。一方で、縁もゆかりもないところへの引っ越しだったため、この期間ご近所付き合いは皆無。隣や上下の階にどんな人が住んでいるかまるで知らなかったし多分興味もなかった。それでも暮らしに全く影響はなかったし、むしろ気が楽で良いと思っていた。

ところが気が付けばあれから5年が経ち、今では朝は管理人さんと話すし、お隣さんや上下階の住人とにこやかに挨拶を交わすようになった。出産するまで私の世界は自宅内、家族、友人、会社だけで完結していて、それはそれは閉鎖的で居心地が良かったのだが、育児生活がはじまってからはそれまで道でずっとすれ違ってきた人たちと言葉を交わすようになったのだ。
育児生活は孤独だと感じることが増えた一方で、子どもがいることで声をかけてくれる人が増え、今まで過ごしてきた世界とはちょっと違った世界が広がっていて、なんだかとても不思議な気持ちになった。特に子どもたちが保育園に通うようになってから、世界がばーっと広がった。
もちろん育児における悩みを相談できるとか、深い関係にあるわけではない。ご近所さんとだって、元気な子どもたちの大声やつい家の中でバタバタ走ってしまって迷惑をかけてしまっていることがあるので、年末などに菓子折りを持って挨拶しに行って積極的なようでちょっと申し訳なさも混ざった感じの関わりも増えた。そうしたことも含めて、出産前には全く感じてこなかった「私はこの地域の一員なんだ」という気持ちが芽生えたのだ。これはあくまで私の場合だが、正直言って子どもがいなかったら自分の家族や友人以外に興味がなかったし、何なら「どこに住んでも一緒だしな~」なんて思っていたから、これはすごい変化だ。余談だが、出産前は「どうせ知り合いもいないし」とすっぴんジャージでコンビニまでひとっ走り、なんてこともよくあったけれど、今は誰にでも会う可能性があるのでちょっとの外出でもほんの少しは前より気を遣うようになった。最初は正直とても面倒だったけれど、今ではその少しの緊張感を楽しめるようになった。

子育てをしていると、育てられているのは実は自分、という話はよく聞くが、それは色んな側面で実感する。子どもに対して冷たいと感じることもない訳ではないが、地域コミュニティの中ではあたたかいと感じる場面ばかりだ。子どもは親や家族、学校だけではなく社会全体で育てられている。そして私も一緒に支えられている。自分が住んでいる国の未来に対して悲観的に思うこともあるけれど、笑顔で子どもたちに手を振ってくれる大人の姿を見ると、少しほっとする。駅員さん、電車の運転士さん、スーパーの店員さん、薬剤師さん、公園を歩く老夫婦、公園の管理事務所のスタッフさん、お総菜屋さん、清掃スタッフさん、路線バスの運転手さん。少し振り返るだけで沢山の方々がちょっとずつ、子どもたちの姿を気に留めてくれていて、このちょっとずつの関わりが、子どもと私の存在を肯定してくれているようで安心する。そこで改めて、私は育児生活が始まった当初はずっと寂しかったんだなあ、と自分の気持ちを再認識した。(子どもたちが終始傍にいてずっと賑やかなのに寂しいというのも、変な感じだけれど。)

今朝は子どもたちを保育園に送る道すがら、ごみ収集車がごみを回収しているところに出会った。少し離れたところから子どもたちが熱心にその様子を見ていると、作業員さんがリサイクルがテーマのキャラクターのシールをくれた。子どもたちは、こうやって自分を取り巻く環境にいる大人たちにかまってもらうと、とても嬉しそうにする。シールをもらった長男は頬を紅潮させて嬉しそうに「ありがとう」と手を振っていた。その様子をみて、私はいつからご近所付き合いなど地域の人とのコミュニケーションを億劫に感じるようになったんだろうと思った。小さい頃は、長男のように私も色んな大人にかまってもらって嬉しかったはずなのに。いつしか子どもたちも成長して自分と自分の友達だけの世界を持つようになって、数年前の私のようにご近所や地域社会とのつながりを億劫に感じるようになるかもしれない。でもまあそれもまた成長か。
子どもたちを介して、私は自分が住んでいるこの町が、いかに色々な人に支えられているかということを学びなおしている。そして長男を出産してから、つまり私が「母親」として育児生活を送るようになってから4年。今、ようやくこの生活に慣れることが出来たんだなと思った。


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