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ピエール•ロラン・エマール ピアノリサイタル【音の水輪、広がる】

先日、東京で久しぶりに雨が降りました。
雨が降ると決まって、ピエール・ロラン・エマールの音が聴きたくなります。
今回は、そんなエマールの公演に行く機会があり、彼の生演奏を初めて聴いてきました。
会場は銀座のヤマハホール。
私、5年以上一度も銀座に足を踏み入れていなかったのに、この数週間で三度も銀座にきています。
一度目は自分の演奏。二度目はアファナシエフのリサイタル。そして、三度目がこのエマールのリサイタル。
実は、これだけ熱くクラシック音楽とピアノについて語っておきながら、自分はサックスでジャズを演奏しているんですよ。
何と言う矛盾…
サックス界の巨匠、フィル・ウッズの音をテレビCMで初めて聴いた瞬間にビビビ。
「よし、サックス始めよ!」って思ったのです。
くだらない話しをすいません。

気を取り直して本題へ。
今回初めてのヤマハホール。
6階まではエレベーターで案内していただけるのですが、そこからは階段。くねくねとした螺旋状の階段を登り、やっと辿り着いた2階席。
体力に自信のある私ですが、さすがに息切れしました。体力に自信のない方、足の悪い方は1階席のチケット購入をオススメします。
そして、着席後ひと息ついたのも束の間、何だかホールの音の響きに違和感を感じる…他のお客様の声や物音が、妙に耳元に残るのです。
不安な気持ち半分、エマールの生演奏への期待半分とで、落ち着かないまま開演を待ちました。
19時を少し過ぎた頃、照明が落ち、会場の静けさの中からご本人登場。
まず、あまりのスタイルの良さに驚く。長身で手足が長くって、66歳とは思えない程姿勢が良い。全身を使い、体を揺らしながら演奏が始まりました。
しかし、一音目が鳴った瞬間に不安が的中。
エマールの音は柔らかくて、絵画の滲み技法のように音が空気へ伝播していくタイプの音色。
このホールだと、上にはよく響くのだけど、滲んだ音が横に広がれず、壁側で潰れておしくらまんじゅう状態。左右の壁が狭すぎるのでしょうか。
また、鍵盤から手を離したあとの、まだ鳴っていたり生きている音が、次に聴こえてくる音と上手く混ざっていない印象。それが、妙に耳元に残る音の正体かなと思いました。
終演後、何だかモヤモヤした気持ちになったのは私だけでしょうか…

と、あくまでも勝手な個人的意見です。
不快になった方がいたらすいません…
いや、分かるんですよ!
あの銀座の一等地の、限られた立地で。
ヤマハの技術者の皆さんが、試行錯誤して完成させた素晴らしいホールだと言うことは!
だけどすいません…やはり私は音色に納得できなかった…あぁ、本当にごめんなさい。
単純にエマールの音とホールの相性が悪かっただけかもしれませんが。
しかし、これはあくまでも音の響きの話しなので。彼の音は自体は凄く綺麗でした。
音が滲む系のピアニストって他にもいますが、エマールの滲みは、滲んだ先で音同士が交わらず、それぞれが独立したまま漂っているのです。
だから、幻想的でぼんやりとした美しさの中に、音の輪郭がはっきりと見えます。
例えるなら、水輪。

水輪って、水面に水滴をいくつか垂らすと、それぞれが広がっていき、広がったその先でお互いに交わる。だけど、ぶつかり合ってもそれぞれの形は保ったままなので、混ざり合って消えない。ミルフィーユのように重なっていくイメージ。それがエマールの音とよく似ていると思います。同じ滲む系の音でも、プレトニョフとはまた違ったタイプ。プレトニョフの音は、滲んだ音が綺麗に混ざり合うので。
だから、エマールは単音、プレトニョフは細かい連符が本当に本当に美しい。私は特に、お2人の弱音が大好きです。

終演後はサイン会がありましたが、並ぶ気になれず…描いたメッセージカードも渡さず帰宅しました。悲しいけど、次の来日公演を待ちたいと思います。
先月聴いた、藤田真央さんの音も描きかけだし。アファナシエフの音も、やっと下地作りが終わったところ。
きっと、エマールからの「先に今描いている作品を仕上げなさい」と言うメッセージだったのでしょう。欲張って色んな音を聴いても、描けなければ意味ないですもんね。
2023年も残すところあと少し。
せめてどちらか一枚は年内に完成させたいな。


プレトニョフに関する記事はこちら↓


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