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バニラ、トリップ、モラルバグ

小説執筆中の息抜きnote、短編集です。
過去の短編集はこちらから

【 Ep.1 】バニラ

“適応の人”
彼はそういう人。
彼がお風呂に入っている間、部屋の本棚を眺めていた。
地べたから天井まで、たくさんの本が詰め込まれたそれは、本棚という名の適応の壁だった。
彼の、器用で、変幻自在で、柔らかい芯の核はこれだ。
その右側、上から三段目に置かれているのは「 10歳で私は穢された 」。

深入りするつもりはない。好きな音楽が似ていて、SNSの見方が同じだっただけだ。一緒に居て楽しいだけの、その浅さが心地良い。
月の光が照らす寝室、ベッドの上で彼は私の胸に顔を埋めている。
小さな顔に白く薄い身体、私がくすぐられるのは結局そういう男の人。

彼の味はバニラほど甘くはなかった。

帰りの電車の中で、制服を着た高校生たちを横目に、私は世界に色が増えたことを実感する。
私が彼らくらいだった頃は、赤は赤で、青は青でしかなかったように思う。でもアンミカ先生も言うように、白だけ見ても200色あんねん。
だからこの世は単色じゃない。この世はそれほど単純じゃない。

バーミリオンも、シアンもあって、だからこの世は美しい。

【 Ep.2 】トリップ

そうだな、なんていうか、軽率な衝動の以上でも以下でも無い。
空が明るくなってきたなぁって思ったのを覚えている。それから私が男を店のトイレに連れ込むまで、どんな経緯があったか記憶は朧気だ。
あれがお酒の勢いだったのだとしたら、深酔いなんて言葉じゃ全然足りないな。

泥酔?酩酊?・・・違う、“トリップ” だ。
私はハイだった。飛んでいた。

だって、話が出来て、顔が好みで、表面的な優しさと小さじ一杯程度の鬱っぽさのある人たらし。
ストリップするには適当な鑑賞者だろう?

「 傷付くとしたらなずなちゃんだから 」
余計なお世話だな、と思いながら口には出さなかった。
私は社会から姿を隠すように、男をトイレに連れ込んだ。

【 Ep.3 】モラルバグ

一度ネジが緩むと、二度目は簡単に外れてしまうということが分かった。
数日の間に立て続けに起きたモラルバグは、張り詰めていた糸が切れた反動だった。
人並み以上の努力と規律性があることは確かに私を光輝かせるけれど、後ろに伸びる影は黒く深く長い。

最近、友人が主催のアート展のキービジュアルを担当させてもらい、その為に減量をしていた。
無事に撮影を終えて減量の必要が無くなった途端、私はリバウンドをした。心のリバウンドを。
食べて、飲んで、だけじゃない。あえてメイクを落とさず寝てみたり、禁忌を犯してみたり。
自分を傷付けて、心に誓っているルールに反してみたりした。

反動の大きさに、普段どれほど自分に負荷を掛けていたかが分かった。
だけど、与えられた仕事に中途半端なレベルで挑んだら、私は私を許せないから。

年末に改めて書きたいのだけれど、私は生涯を賭けて、人間を辞めることを目標としている。
礼儀正しくて社会性があって、感受性が豊かで、愛想が良くて、人の期待に応えられる。
そんな人間らしいこの生き方を辞めることが私の一生の目標。

作家業一本に絞りたいと思うのは、私を人間たらしめるこの社会から脱する為。
この社会で生き続ければ、私がらしさを失うのは時間の問題だから。
内的世界が大きいんだ、私は。

自分を守る為に、言葉の世界で生きていく。

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