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楽しい落語の話し方

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創作落語。 女子中学生2人が、落語の世界に飛び込む。 プロの世界で鍛えられた落語サラブレッドの小学生に創作落語で挑む。 ちょっと恋愛もあるよ。
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現代落語・芝浜

 そう締めくくり、左近が頭をさげる。
 すると、会場から拍手がおきた。
「ああ、そういう終わり方なのね」
 梓が独り言をつぶやくと、周りからぎょっとされた。
「では、次は同じ題材で梓さんと風音さんに演ってもらう予定ですが、準備はどうですか?」
「はーい。では着替えてきます」
 言うなり、梓が風音の手をとり、舞台裏へとかけだした。

☆☆☆

「えー、昔は「働かざるもの食うべからず」って言葉がありま

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古典落語・芝浜

「芝浜の貧乏長屋に住む魚屋の三郎。腕はいいし人間も悪くないが、大酒のみで怠け者。金が入ると片っ端から質入れしてのんでしまい、年中裏店住まいで店賃(たなちん)もずっと滞っているありさまでございます」
 落語ツアーに参加することになった梓と風音が、旅館につくなり、いきなり始まった左近の口上を聞かされていた。
 十数人の落語家の新人たちが持ちネタを披露する懇親会らしい。
 後で、梓も演じてくれと頼まれて

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王子の狐③

王子の狐③

「……左近に友達?珍しいな。見に来てくれたのかい?」

【関係者以外立ち入り禁止】の扉を潜り抜け、何食わぬ顔で『滝川師匠』と書かれたネームプレートが飾ってある部屋をたずねると、人のよさそうな、まだ三十代くらいのおじさんが本を読んでいた。

 左近はいないかと訪ねると、彼は梓たちを学校の友人と勘違いしたのか、部屋に入るよう勧めてくれた。

「いえ、実は私たち、今日、ロビーで知り合っただけなんですけど

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『王子の狐②』

「東京が江戸と呼ばれていた時分、王子稲荷、今で言う東京北区王子には、たいそう人を化かすのがうまい狐がいたそうです。初夏のさわやかなある日、狐のオキヌが今日も人間の男を騙して食事にありつこうと、山から街まで下りてきました。ところが、その一部始終を村に住む権兵衛が見てしまっていたのです」

『あれまぁ、王子の狐はよく人を化かすと聞くが、よもや、人間に化けたところをこの目で見るとはのぅ。このまま黙ってた

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『王子の狐』①

『王子の狐』①

「おぅ、そろそろ戻ろうや。後、十分もしたら口演が始まってしまう」

 ちょっと会話をしていただけのつもりだったが、気がついたらだいぶ時間がたっていたらしい。
 昭雄と一郎が二人を迎えにきた。

「はーい」

 風音と梓は飲み終わったペットボトルと瓶をゴミ箱に捨てて返事をする。

「さっきの子も出ると言っとったな」
「前座って言ってたね。前座ってなに?」

「こういうイベントなどで落語家に限らず、演

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小学生の落語家②

小学生の落語家②

【関係者以外立ち入り禁止】

 売店をすり抜けた通路の先、人気のない扉の前には張り紙でそう書いてあった。

「やっぱり、ここは入っちゃだめなんだよ」
「むむむっ。近くの公民館にお笑い芸人が来た時は打ち合わせしている所くらいは見れたんじゃがな」
「そりゃ、さすがにウチに来るような三流芸人とは違うじゃろう。厳重な 警戒は無いにしても、テレビで見るような落語家も来るようじゃし。一般人が勝手に入ってきて、

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小学生の落語家①

小学生の落語家①

 一歩間違えれば、受付のお姉さんに警察を呼ばれかねない程、風音にへばりついていた祖父・涼宮一郎を引き剥がし、ようやく落語会場へと辿り着いた四人。

「いやぁ、恥ずかしい所を見せてしまった。めんぼくない」

 ぽりぽりと頭をかきながら、一郎が会場を見渡す。予想以上に早くつきすぎてしまったせいか、三百人は入れる会場に設置されたステンレス製の簡易椅子に一番のりだった。

 腕時計をちらりと見ると、口演が

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楽しい落語の話し方 【オープニング】

楽しい落語の話し方 【オープニング】

 私の知っている世界と、貴方の知っている世界は同じようで、ちょっとだけ違う。
 同じ場所でも、見ている物が同じでも、容れ物と見る者が変わればすべて別物である。

 それは『文化』にも言えることだ。

 日本で言えば、国技である相撲は若者の注目が減っただけでなく、外国力士がまるで本家のようである。
 落語にいたっては、さらに、家庭、学校、職場にまず話題としてあがってもこない。
 無論、そんな状況に、

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