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日本料理と日本酒の可能性

研ぎ澄まされた料理と厳選した日本酒、どちらかを揃えるお店は数あれど、どちらも揃った店は中々見つからない。

広尾天現寺橋近くに在る青草窠はそのどちらも備えるお店

以下ミシュラン二ツ星、青草窠の料理と日本酒の相性の良さを共有したい

●森嶋 純米大吟醸 雄町 生酒 茨城県

スタートはキャビアのフィンガーフードと半生唐墨餅。海の幸を受け止めるのは森嶋。蔵の庭からは波の音が聞こえるほど海が近く、蔵元は日常的に魚を食べている。お酒の味わいも香り、甘味控え目、酸の輪郭があり魚介を活かす味わいに自ずと仕上がっている。キャビアの旨味に寄り添い、唐墨との相性も素晴らしい。

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伊勢海老は常磐沖でも名物、森嶋との相性も最高に良い。新鮮な伊勢海老のギュッと詰まった身の甘味を森嶋の酸が引き立てる。

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●而今 特別純米 火入れ 三重県

当日届く間人の蟹を使用した繊細なお椀。而今は香り・旨味が豊かなお酒で、甲殻類など旨味がしっかりした食材と相性が非常に良い。椀種との相性は素晴らしかったが、椀汁の味わいが繊細な為、椀種の甘味が溶けだした後半は良いが、前半は酒が強い。椀汁に合わせられるお酒は数えるほどしかないと思われる。

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●新政 エクリュ 秋田酒こまち 秋田県

日本海の黒鮑の刺身と肝醤油。こちらは素晴らしかった相性の1つ。新政が熟成したボトルだったのも良かったと思われる。鮑の食感、甘味に対して新政の中で一番まろやかで旨味のあるエクリュが受け止め、余韻まで一緒に伸びていく。肝の複雑さにも新政の生酛由来の複雑さと熟成由来の旨味がピッタリと合った。

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若狭ぐじとキャビアのかぶら蒸し柚子釜。柚子の爽やかな香りとぐじの旨味、キャビアの余韻、全てを受け止める新政。新政以外に而今や磯自慢も合う料理。

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●伯楽星 純米大吟醸15% ひかり 宮城県

こちらは昨年末に新たにリリースされた伯楽星ブランドの最高峰。7%精米の残響や、キザシ、ニイザワのラインとは異なり、「伯楽星」ブランドの最高峰というのが重要なポイント。伯楽星は究極の食中酒をテーマに味わいを設計しており、糖度が他の蔵と比較するとかなり低い。よって華やかで甘い酒と異なり料理を活かす味わいになっている。この伯楽星の真価がこの八寸で昇華された。

蟹味噌、このわた、海鼠等、どの料理と合わせても消すのでも、切るのでもなく、重なる。

高精米由来の雑味のなさ、透明感がそれぞれの料理の味わいの下に入り込み味わいを持ち上げる。この味わいなら椀も合わせる事が出来る。

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●義侠 純米原酒 完全契約栽培米 愛知県

高知あかうしのビフカツとこの義侠は素晴らしい相性だった。脂分の少ない、肉の旨味が濃厚なあかうしをカツにすることで僅かな脱水効果も相俟ってさらにパワーが増している。この料理に合わせるお酒には支えられる旨味も必要だが、純粋な旨味だけが必要で、甘味や熟成感、高いアルコール度は必要ない。

毎年お互いに蔵と田んぼを行き来する仲の契約農家が初めて特上ランクの酒米を生み出した。長年一緒に歩んでいる義侠もそれがあまりにも嬉しくて醸造の気合が一段と入った。それをはせがわ酒店がテイスティングで発見。

最後のバトンは青草窠のあかうしに繋がった。農家、酒蔵、酒屋、料理屋、全ての本気が繋がった一皿。

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●みむろ杉 特別純米 露葉風 奈良県

あくまで日本料理のコースとしての牡蠣。濃厚な牡蠣ではなく、あっさりとした味わい。定番のみむろ杉も日々進化を続けている。10キロ単位の洗米にし、都度水を入れ替えるようにした結果、昨年よりさらに透明感が増した。

合わせると生牡蠣の磯の風味を抑えながら酸で爽やかに切ってくれる。どこに差し込んでも合わせられるみむろ杉。

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白子のすりながしにはお酒の温度も近づけるのが良い。旨味があって酸が練れているお酒。九頭龍の純米や、七本槍純米などを少しだけ燗酒で。

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●磯自慢 純米大吟醸 ブルー西戸 静岡県

この上質な組み合わせはここでしか出来ない完成度の高さ。素材の甘味が活きた炊き合わせと磯自慢ブルー。磯自慢は品のある香り、酸は穏やか、適度なミネラル感があり何にでも合わせられそうだが、実は料理を選ぶ酒。素材の旨味・甘味がないと酒が勝ってしまう。

王道の料理に王道の日本酒。ブルーは年一回しか入荷しないので、中々こうして楽しめる機会もない。そして磯自慢の場合、熟成により品質は向上する。

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お食事、宮崎キャビア、無農薬玄米の組み合わせは目から鱗。旨味のある玄米とキャビアは噛みしめるほどに一体化する。赤出汁の旨味も寄り添う。日本料理のコースとしての完成度。

キャビアと聞くと、大トロに乗せたり、松茸に合わせたり、ウニに合わせたりと、最近お金を取る為の道具として使うお店が多いと感じるがこうして素材に向き合った提供の仕方は逆に新しいと思った。

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●十四代 蘭引酒 鬼兜 山形県

泣く子も黙る十四代(泣く子は飲めないけど)が手掛ける蘭引酒。アランビック(全銅製シャラントポット・直火型単式蒸留器)を用いて「らんびき」をくり返し、ハートだけを取り長期熟成、その後ホワイトオーク樽に寝かせ長熟させた、日本酒のコニャック。無農薬の柚子ゼリーの鮮やかな香りとは対極にある鬼兜だが、いつも新しい発見はこういう所から生まれる。

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●シャトーディケム 1996

古都華と熟成したイケムの組み合わせも実に見事なマリアージュ。苺自体の糖度、酸度が高くないとここまでの相性は生まれない。イケムはどのヴィンテージを飲んでも他に替えがない程のクオリティ、だがヴィンテージでステージが異なる。以前セールスディレクターのテイスティングに参加した際は、ステージ3まであるという話しだった。今回の96年はステージ3にいると感じた。

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日本酒と日本料理はまだまだ近づくことが出来ると感じた日。
元々酒が好きでそれを生業にしたいと上京し、この業界に足を踏み入れた。
最初は酒だけに興味があり追求を続けていたが、ある出会いから日本料理の世界に魅了された。

日本の名を冠する日本酒と日本料理、その相性を追求するようになるまで時間はかからなかった。

仕事は出会いから生まれ、それによりまた違うステージへ進める。日々扱う洗練された日本酒達と洗練された料理を組み合わせることは非常に興味深く、その相性は幸せをもたらしてくれる。

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