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【事例でみる空間設計①】コストコントロールと仕掛けをデザインする飲食店設計

はじめに

はじめまして。
&Supplyのデザイナー、sakoです。

私は空間設計デザイナーとして2021年にチームにジョインしました。
当時9名だった社員も今では15名とメンバーが増えました。

私たちの会社は、3店舗ある飲食店を運営する飲食チームと、自社やクライアントの「空間デザイン設計/グラフィックデザイン」を担うデザインチームで構成されています。

隣にいる社員が全く違うジャンルの仕事をしていたり、互いに仕事を依頼しあったり、デザインチームが仕事終わりの一杯を飲みにお店に顔を出したり。。。
1人1人の個性とスキルの掛け合わさりを日々実感できる、刺激的で面白い会社です。

今日はそんな中でも空間設計の仕事について、昨年デザインを担当した「808labo」さんの事例を紹介しながら「&Supplyでどんな空間を作っているの?」という点を少しご紹介します。


YAOYAの3号店 「808labo」

昨年の10月に松見坂にオープンした創作料理店「808labo
私たちの運営しているストリートバー「LOBBY」がある池尻大橋で、人気店「焼鳥やおや」「リバーサイドヤオヤ」を展開しているYAOYAの3号店です。

&Supplyは日頃から同じ池尻大橋に店舗を構えるご近所さんとして仲良くさせていただいており、既存店のそれぞれで壁画チーム「RELISHとして壁画を描いています。

1号店「焼き鳥やおや」
2号店「リバーサイドヤオヤ」

今回、新店の「808labo」はYAOYAのオーナーである遊津拓人さんからお声かけをいただき、空間デザインを&Supplyが担当しました。


プロジェクトスタート!

プロジェクトは昨年の5月にスタートしました。
店舗の立地は2号店までの池尻大橋駅付近からは少し離れ、駒場東大前、神泉、池尻大橋駅からそれぞれ徒歩10分ほどの「松見坂」交差点近くに位置しています。

拓人さんから伝えられたお店のコンセプトは、美味しい焼き鳥を気軽に食べられる居酒屋スタイルの1、2号店と違い、
「808日限定の社員の修行道場として、実験的な料理を楽しめる場所」
でした。
他の姉妹店のように焼き鳥の焼き場は持たずに、色んなジャンルの創作料理を提供します。
YAOYAの社員が100日ごとに入れ替わりながら、シェフの手ほどきのもとで料理の技術を高めていくYAOYAの新たな店舗形態でした。

コンスタントに新しいスタイルに挑戦をしていたり、海外の視察からインスピレーションを受けている点など、ジャンルは違えどそのチャレンジングな勢いが自社と重なる面も多く、打ち合わせからワクワクしていたのを思い出します。

同じ地域で共に頑張っているYAOYAの新たな試みが、たくさんの人に伝わるような空間デザインにしたいと思いました。


空間イメージとレイアウト作り


ヒアリング、現地調査を経て、7月からの工事スタートを目指してまずはお店のイメージとレイアウトを作成します。

天井のスケルトンを活かしてラボの雰囲気に。

店内のイメージは、料理のジャンルを縛らないことや808日の限定店になることから、華美な装飾はせずに天井や床は既存ままでスケルトンの状態を活かした提案をしました。
見えてくる配管や、無機質なアルミ素地のペンダントライトなど工業的な要素から、ラボ(実験室)のような雰囲気をつくっています。
何屋かわからないワクワク感と創作料理がマッチする空間を目指しました。


レイアウトは、席数の希望を伺いながら、客席をカウンターだけにするか、テーブル席を作るか、立ち飲み席を作るかなどさまざまなパターンを検討しました。

ヒアリングの中でも、お店がターゲットとする客層や客単価は、席のレイアウトやデザインに大きく関わってきます。
そのため、実際にいくつかの飲食店を一緒に視察しながら、
「この席の作り方は面白い。けれど今回のお店の客単価はもう少し上だから滞在時間が長いことを想定したレイアウトや素材選びが必要そう。」
といったように、経営的なヒアリングもしていくことを大切にしています。

自社で飲食店を3店舗経営していることからも、より根拠と実績のあるアドバイスができるのが&Supplyの強みです。

「808labo」が提供するメニューは焼き鳥ではなく、シェフが一工夫を施すジャンルレスな創作料理。
ドリンクはワインも豊富に扱い、客単価も姉妹店の串ものや小皿料理と比較すると高くなる予想があるため、食事を楽しめる大人な雰囲気を目指したい。一方で、808日限定店ということで作り込みすぎず、YAOYAらしいオープンな雰囲気も出したい。
こういったリクエストから、レイアウトは無理に客席を詰め込まずにしっかりと食事ができるように着席のハイカウンターを中心とし、入り口付近では立ち飲みもできる席構成にしました。

そして一番の顔となるカウンターの形状は、「社員の料理の修行場」というコンセプトから「お客さんが修行を見守るような一体感のある席を作りたい」という思いが一番反映できるよう、
客席が厨房の中までぐるっと回り込んだレイアウトに最終着地しました。

決定したレイアウト

このレイアウトの面白いところは、カウンター席の場合、3名以上並ぶと席が遠くなってしまい会話がしづらく複数人には向かないと思うのですが、厨房まで客席が回り込む形にすることでテーブル席のように向かい合った席が作れます
これにより、4~6名の団体も楽しめる空間になりました。
また、手前から奥にしたがって広がる形をとることで、奥の向かい合う席のカウンターの奥行きを広く確保できるように設計しています。
カウンターラインを斜めにしたことによって入り口から見たときに奥までお客さんが入っている賑やかな様子が見えるといった効果もありました。
もちろん、料理を作り手と近い目線で楽しめる客席とスタッフの一体感、ライブ感があることもこのレイアウトの醍醐味です。


デザインはコストのコントロールと仕掛け作り

私が店舗デザインをするときに、心がけている点が2つあります。

一つは、空間自体が主張するのではなくそこに介在する人が引き立つ、効果的なポイントをデザインすること
飲食店であれば料理そのものや料理をする人、食事をする人にスポットが当たるように一連の動きをイメージしながらレイアウトをしたり、目にして触れて心地の良い素材の組み合わせやカラーリングを目指していきます。
また、デザインはコストバランスも重要。決められた予算の中、全てにお金を掛けることは中々難しく、効果的なコストの掛けどころを見極めてデザイン提案をすることも求められます。

「808labo」では、カウンターの仕上げを既存のコンクリート物件を活かした無機質な空間の中に馴染むグレーのモールテックスにすることで、提供される一皿一皿の彩がより映える効果を狙っています。


ファサードは、既存のテナントの窓枠を活用しながら、オープンにできる仕様に変更することで、開放感と外からも店の活気が伝わるようにしました。

外飲みもできるフラップ式のカウンター。


客席のハイスツールは、低価格ながらもデザインがベーシックで空間に馴染みやすく、木製チェアの種類が豊富な「IDEA」というお店からシンプルなブラウンの丸いスツールを提案してコストを抑えています。


また、店内の造作家具は、高騰する木材の中でも価格を抑えるためにラワンベニヤで製作。木口の積層もデザインの一部とし、扉にキーカラーを入れて全体の統一感とお店の色を出しています。


そして心がけているもう一つの点は、その空間にしかない、人に伝えたくなる仕掛けをつくることです。
気づいた人が思わず誰かに教えたくなるようなポイントをどこかに作るようにしています。
「808labo」は期間限定店なので、オーナーである拓人さんが海外からインスピレーションを受けたカウントボードを作ろうというお話になりました。
オープン日から最後の808日までを入り口の壁の数字のボードで毎日カウントしていく仕掛けです。来た人は自分が何日目に来店したかわかる仕掛けであり、働くスタッフも今日が何日目かを日々実感できます。

808日までをカウントする入り口のボード

このスポットは写真を撮ってSNSにUPすることも考えて、ボトルやグラスを一緒に置けるスペースや画面に収めた時のサイズ感も意識して作りました。
「808labo」に来た日が、お客さんにとってもスタッフにとっても記念の日となるような、印象的なスポットになっています。

また、店内の奥に一際目立つ提灯照明は、雪だるま型で数字の8の字のよう。808laboのチャームポイントになっています。

カウンター奥。8の字のような提灯照明が808laboのチャームポイントに。

一番嬉しい瞬間があるから、デザインの仕事は楽しい!

10月上旬、1.5ヶ月の工事を経て、ついに店舗が完成しました。
着工前後は細々とした手配で頭がいっぱいになったり、
動き出してから見つかる微修正に追われたりと心が休まらない毎日ですが
工事終盤になるとみるみるうちにデザインした全貌が現れてくるので、
施主さんと一緒にテンションが上がります。
無事に完成した時にデザインの提案時を超えるわくわく感や、こちらにも伝わるほどに良い反応をもらえた時が、仕事をする中でこの上なく嬉しい瞬間です。

「お施主さん」も「設計」も「施工をする大工さん」もみんなひとつの空間をつくるチームです。
仕事をする上でこの素敵なご縁への感謝を忘れずに、お互いに「最高だな!」とテンションが上がる空間をこれからも作っていきたいです。


さいごに


「808labo」がオープンしてからは私もお客さんとして何度も訪れていて、毎回美味しい創作料理とお酒を楽しませていただいております。
(写真は、お気に入りのアボカドが入った緑の麻婆豆腐。)

新たにお店の外の看板も設置してアップデートした「808labo」。
ころっとしたキューブ型のロゴが目印となり、お店の場所がよりわかりやすくなっています。
皆さんもぜひ、期間限定の「808labo」で空間と料理を楽しんでみてください!

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