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ザ ラスト ジェネラル マスト ダイ

「お喜び申し上げます。今日から貴方様は大将軍です」
 髪をピシィと整えた副官の言う通り、僕は大将軍になった。
 前皇后が処刑されて、妹が皇妃になったからだ。
 僕は大好きな肉屋をやっていたかったのに、どこからか人生が狂った。
「肉ばかり食えた日々が懐かしいよ」
「ご自重ください。また周囲から叩かれます」
 そうなんだ。堅苦しい王宮じゃ、まず香辛料がダメだと怒られる。胡椒を効かせた肉を振る舞ったら「口が痛い! 控えよ!」と来る。鉄板焼きひとつ満足にやらせてもらえない。

「ところで大将軍って?」
「最上級の特設武官にございます。文官を束ねる三公さえ、戦時には格下となるのです」
「僕、戦なんてできないよ」
「黄巾の乱の討伐はお嫌ですか?」
「ああ嫌だ。自国の民を殺す必要がどこにあるんだい?」
「反乱が絶えませんで、大将軍の武威こそが後漢帝室を輝かすというもの」
「でもさ怒らせた方が悪いんじゃないの? しかもソレって僕のせいじゃない。どうして尻拭いしなきゃいけないのさ」
「天意であられましょう」
 困った、副官と話が噛み合わない。世間で僕が無能と笑われるわけだ。

「お兄様」刺すような声。
「やあ英華」振り返って返事をする。妹は変わり果てた。
皇后、でしょう?」要求はつっけんどんだ。
「……ご機嫌はいかがですか、何皇后」膝を屈して礼を示す。
「ねえ後宮に侍女が多すぎるわ。予算がかさむから徹底的に処分して」
「いや、それはちょっとずつやった方が」
「「「戦がダメなら、経費削減くらいさっさと進めなさいよゥ!!」」」
 思わず首がすくむ。もとより自分は首がないくらい太ってるけど。ああ……牧場のみんなと和気藹々、肉にかぶりつけた頃に戻りたい。

───僕には相談相手が必要なんだ!!

 部屋を飛び出して、手紙の内容を考える。
 肉が好きで戦いに詳しい、唯一話のできそうな友達。文面はこうだ。

“董卓くん久し振り! また焼肉パーティしようよ! 何進より”


【続く】


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