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服にセンスよくシワをつけるお仕事

今日はなんと風が強いことだろう。
ビュービューと吹き荒れる風に、せっかく整えた髪型もテンションあがってタコ踊り。
向かい風のなか歩いていると、思わず両手を広げたくなってしまう。
あるはずもないヒダを広げ、モモンガのように飛べるのではないかと試みる。実際飛べるわけもないし、むしろ飛んだら飛んだでめちゃくちゃ焦るんだろうけど。

そんな強風が吹き荒れる本日の東京。

今日は雑誌の撮影だった。
noteではライターの話しかしてこなかったけど、実はスタイリストもやっている。と言っても、芸能人を相手にとかではない。
「物撮り」と呼ばれる撮影で、主に服の単品を撮ったり、コーディネートした状態で、なんかそれっぽくオシャレな感じに撮影する。
ただ服を置いて撮ればいいってわけではなく、いかに”オシャレなシワ”を入れられるかが、ファッション誌の物撮りにおいてセンスの見せどころだ。

オシャレなシワってなんだよ!と思うかもしれないが、最近のファッション誌をよく見て欲しい。どの雑誌も、いい感じの”シワ”が入っていることがわかる。けっしてお金持ちの家にあるトラの絨毯ように、シワひとつなくびた~っとしているものはない、と思う。

このシャレた”シワ”を作るにはコツがいる。
大手のファッション誌であれば相当な時間をかけているに違いないだろうかが、我が誌はいかに手早く、雰囲気よく仕上げるかが求められる。
はやい・うまい・やすい!そう、まさに撮影のファーストフードである。
安いのは勘弁してほしいのだが。

しかし、アイテムによってそのシワ付けにも客層がある。
パーカやデニムのように、生地が分厚いやつらはとても素直だ。
私が「ここをこう!」と動かせばすんなりと動いてくれるし、そのまま大人しくしてくれる。ほんといい奴ら。
しかし、シャツやスラックス、あいつらはマジで聞く耳をもたない。
昭和のおじさんくらい頑固。
私が「こっちをこう!」と、いい感じにシワをつけようもんなら「わしゃ動かんぞ!」とばかりにもとに戻る。しかめっ面をして頑なに動こうとしないのだ。服のくせに。

これではシャレたシワとは言えない。
ただのシワくちゃだ。みっともない。

アイテムもだが、素材によっても変わってくる。
コットンはまだいい。まぁ、そこまで言うなら……と、丁寧な暮らしを求めるオーガニック人間のごとく、シワを受け入れてくれる。協力的だ。が、お高いシルク様はまったくいうことをきかない。「は?あたしにシワなんて必要ないのよ」と、顔にヒアルロン酸入れたてのセレブのように、まったくもってシワを受け付けないのだ。不自然なハリがありすぎる。

こうなると説得するのに時間がかかる。
「最近はこっちの方がいいんですよ!」
「ちょーっとだけいじらせていただけないでしょうか」
「あのーここだけ!ここだけちょっとこうさせてくれませんか?」
「ここを絞ると、ほっそりして見えるんですよね~」
などと、シルク素材のシャツを相手に心のなかで必死に説得しながらシャレたシワを作るのだ。

結果的に、あまり満足いく仕上がりにはならない。
明らかに無理してますと言わんばかりに不自然なシワになってしまう。
パーカやデニムのように、私にまかせてくれればいい感じになるというのに。お高くとまるシルク様は言うことを全然聞いてくれないため、残念な結果になることもしばしば。せっかく質がいいのに。

わがままなシャツのあとに、優しきパーカがくると天使かと思う。
だから好きだぜ、パーカ。と愛を語りながら、ものの数秒でシャレたシワを作りだせるのだ。数少ない自分の中の些細な才能だ。

服の流れが終わると、次は小物に入る。
靴や財布、ベルトなど。
私は、服よりも小物の物撮りのほうが好きだ。
服と違ってシワはいらないから、みんな寛大。
ドーンと居てくれるだけでいいから、どんなポーズをとってもらおうかとワクワクする。

主役のお高い革靴が私の手元にやってくる。
「やぁ、気分はどうだいベイベー。僕をどうやって撮ってくれるんだい?」と、ちびまる子ちゃんに出てくる花輪くんのように革靴が私に語りかけてくる。普通に並べて撮るんじゃつまらないから、ここはアーティスティックにいきたい。

そうだ、高級車だ!

今日イチのひらめきが降りてきた。
思わず「今日はランボルギーニでいきましょう」と、革靴に話しかけてしまったくらいだ。大丈夫、周りには誰もいない。

右足と左足を、2台のランボルギーニに見立てて格好良くスタイリッシュに納車する。ブゥ――――ンなどと口でふかすエンジン音を聞かれては、私がやべぇやつだと周りのスタッフにバレてしまうため、ここはひっそりと心のエンジンをふかす。

右に左に斜めに、ハンドルをきりながら無事に駐車完了。
ランボルギーニに見立てられた革靴は、とても満足のいく仕上がりとなった。これだけで、あんなにわがままだったシルクのことも「かわいいやつだったな」と思えるくらい気分もよくなる。

長年ともにしてきたカメラマンさんに、こう撮りたい!と伝えるだけで、私の想像図をそのまま再現してくれる。照明の位置を変え、レンズを変え、アングルを変え、プロのカメラマンさんは本当にすごい。

「高級車をイメージしました!」という私のノリにも
「意味わからねーよ」と言いながら想像以上の写真に仕上げてくれるのだから。

そのすごさが、物撮りではなかなか伝わらないのが寂しい。

心を動かすような風景写真ではないし、表情を引き出した写真でもない。自分もこの仕事をするまでは、ファッション誌の写真なんてモデルさんにしか興味がなかった。でも、ひとつひとつ物撮りされている服も、ただ撮っているだけじゃない。モデルさんが着ていなくても欲しくなるように撮っているという技術があるのだ。

ファッション誌を見る機会があったら、是非とも”シャレたシワ”を探してみてほしい。できることなら、自分の服をシャレた感じに撮れるか試してみると物撮りの難しさと奥の深さがわかるかもしれない。



物撮りってこんな感じ。この方はとくに聞き分けのいいアウターさんです。














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