小説『あの日、あの時、あの場所から』誕生秘話

R35(35歳以上のための)甘くて苦い恋愛小説、水沢秋生著『あの日、あの時、あの場所か…

小説『あの日、あの時、あの場所から』誕生秘話

R35(35歳以上のための)甘くて苦い恋愛小説、水沢秋生著『あの日、あの時、あの場所から』 この小説の誕生秘話などを、著者と編集者が書き連ねていきます。 https://www.amazon.co.jp/dp/4909689192/

最近の記事

「またスタート」

 小説家のスタートといえば新人賞ですが、新人賞にも様々な種類があります。ミステリーや時代小説、純文学など、いわゆる「ジャンル」の違いはもちろん、「どういう形で本になるのか」ということも重要です。つまり、大きな形の「単行本」か、手軽な「文庫本」かということ。  ただし私がデビューしたときには、版型の違いはそれほど大した問題だとは思っていませんでした。  というのも、単行本が出れば、しばらくして文庫本になるのは当然だと考えていたからです。前回も書きましたが、単行本に比べれば、文

    • 本を売るということ(第15回)

       小説家の仕事は、言うまでもなく物語を書くことです。物語を書き始め、「了」の文字を打つ、そこまでが小説家の本来の仕事です。  しかしそれは、終わりであると同時に、始まりでもあります。というよりも、「本を売る」という意味では、本が書店に並んでからがスタートです。  そう、本を「売る」です。よく「今売れてる本」「あの本は売れた」などといいますが、本は勝手に売れません。 「よいものならば、読者は分かってくれる。だからよいものであれば自然に売れる」、今でもそう思っている人はいます。昔

      • 無人島からのボトル(第14回)

        なんだかんだでひと月ほど更新が空いてしまいました。 水沢氏も書いていますが、とくにイワサキ更新の回は絶望的閲覧数なので、正直なところ、モチベーションが上がりませんでした。 ただ、良く考えたら作家さんは本を出す前は毎回のようにこんな気持ちを味わっているんですよね。 ある大作家さんが「原稿を書いているときは、無人島から海に向かってボトルに入れた手紙を流すような気持ち」と言っていましたが、その気持ちの100万分の1くらい分かった気がしました。 と同時に、読んで感想を言ってくれた

        • タイトルについて(第十三回)

           もはや誰も読んでいないような気がするが、やりかけたことは最後まで。  さて、今回はタイトルの話です。実は小説を出版するとき、もしかすると一番難しいのは「タイトルを決めること」かもしれません。  これまでの作品でも、タイトルが簡単に決まったことはほとんどありません。「あの日~」が出るまで最新作だった「俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない」は、完成までは「因果」という題名だったし、現段階で一応代表作という評価を頂いている「プラットホームの彼女」は、もともとは「始発電車の彼

          本を読まない人に、本を読んでもらう方法(連載第12回)

          ●自分で売るしかないこんにちは。 いよいよ3月突入ということで、花粉症のイワサキは2月中ごろから薬を服用しております。 今のところ、ちょっと目がかゆいくらいで、まだ「鼻水が止まらんっ!」みたいな症状は出てきていないのですが、これからゴールデンウィークまでは、マスクが手離せません。 さて。 先日、面白い記事を発見しました。 【出版不況?「だったら自分で売るしかない」 開高賞作家・川内有緒さん、著書を携え東へ西へ】 すごく興味深かったのが、 ・著者自腹でティーパーティー

          本を読まない人に、本を読んでもらう方法(連載第12回)

          考えてみればちょっと怖い話(誕生秘話11)

          その作家さんを最後まで信頼して信じぬくことを決めたら、あとは面白い作品を書き上げてくれるのをひたすら「待つ」のが僕の仕事です。 (世の中には2種類の作家がいる(誕生秘話10)より) と、編集イワサキ氏はこのように言うわけですが、実は小説家にも「待つ」ことが必要なことがあります。  前回、プロットの話に触れましたが、プロットがあろうがなかろうが、途中で編集者に相談しようがしまいが、結局のところ、小説家が手を動かし、動かし、動かし続けなければ小説は出来上がりません。  また

          考えてみればちょっと怖い話(誕生秘話11)

          世の中には2種類の作家がいる(誕生秘話10)

          ★世の中には2種類の作家がいる 前回の水沢さんの記事では、プロットについて、 今回の場合も、「プロットを提出してください」といわれるかと思い、身構えていたのですが、薄毛氏は「あ、プロットはいいすよ、お任せします」と気軽におっしゃり、私はほっと胸をなでおろすことになったのでした(今考えれば、これも薄毛の軽薄さのなせる業なのですが)。 と書かれていますが、ちょこっとだけ補足を。 世の中には、2種類の作家さんがいます。 プロットを綿密に作ってから物語を書き始める作家さんと、

          世の中には2種類の作家がいる(誕生秘話10)

          プロットと作家と編集者(誕生秘話9)

          では、仮に10万部売れなかったら、どうなるでしょう。 「どうってことはない」のではないでしょうか? (前回「薄毛の宿命(誕生秘話8)」より) 「のではないでしょうか?」、じゃあ、ねえんだよ! さて。  薄毛が(腹立ったのでこう呼ぶ)がそんなことを考えているなど知る由もない私は、第一回目の打ち合わせの後、「10万部……」というプレッシャーを背負いつつ、実際の作業に取り組むことになりました  この作品に関しては、もっとも初めの段階で「三十代以上向け」「王道の恋愛小説」とい

          プロットと作家と編集者(誕生秘話9)

          薄毛の宿命(誕生秘話8)

          小説家と編集者が小説が出来上がるまでを書いているこの連載。 今回は編集者イワサキの番です。 今回の目次は、 ●頼りない役を演じる大泉洋 ●薄毛の宿命 ●「10万部売りましょう」の理由 ●危うく耳ない芳一に…… となっています。 それではどうぞ。 ●頼りない役を演じる大泉洋「小説が書かれるまでに作家と編集者がどんな感じでやりとりをしているのかって、みんな興味あるんですよ~。バズりまっせ!」 という某ネット関係者の一言を真に受けて始めたこの連載。 もう8回目なんですよね

          初対面(誕生秘話7)

          時系列が分かりにくいので、今回から(誕生秘話)の後に数字を入れてみました。おひまのある方は、順番にどうぞ。 そしてイワサキ氏のは、イツモ、チョット、ミジカイネ。  さて。  最初の打ち合わせが行われたのは、記憶にある限りでは2017年の夏。場所は大阪駅直結のホテルのティールームでした。ちなみに、この場所は関西在住の作家と、東京から来た編集者が打ち合わせをする定番の店らしいです。東京でいえば、新宿の喫茶店「椿屋」にあたるでしょうか。  そういうお店では、その筋の人が大勢打ち

          編集者が著者に伝えようとしていた、たった1つのこと

          ●前回までの編集者イワサキの話・本屋に行くと新人をチェックしている ・ある日、『プラットホームの彼女』という文庫を発見した ・読了後、すぐに手紙を書いて、キノブックスで書いてほしいと依頼 ・テーマは「水沢さんの書く王道恋愛小説」 ・水沢さんに本を書いてほしかった理由 などが書いてあります。 よろしければ、「誕生秘話2」「誕生秘話4」をどうぞ。 ●「これだけは伝えよう」と思っていたことさて。 水沢さんに手紙を送り、その後メールで打ち合わせの日時と場所を決めるやりとりを経

          編集者が著者に伝えようとしていた、たった1つのこと

          きっかけ

           前回は、「三十代以上に向けた王道の恋愛小説」というテーマを前にして困り果てた、という話でしたが、ひとつ言い忘れたことがありました。  それは、「私はいつだって困っている」ということです。  小説を書くとき、困っていないことはまずありません。特に書き始めるときはいつだって困り果てています。  これは「適切な言葉や表現が見付からない」とか「プロットをどう展開させていいか分からない」というレベルの話ではなく、「何から手をつけていいか分からない」ということです。  新人賞を

          誕生秘話 4

          前回の著者からの「酒井若菜、はあちゅうと来て、なぜ水沢秋生だったの?」に対する編集者の返答はいかに? ~~~~~~~~~~~~~~~~ 1994年。 当時中学1年生だった編集者・イワサキは、給食時に1枚のCDを放送室に持っていきました。 TM NETWORKの「STILL LOVE HER」という曲を流してもらうために。 ターンタンタンタタンタンタンタン…… イントロが流れ始めたとき、僕は隣の席の友人に、 「あ! この曲、知ってる? TMのSTILL LOVE HERっ

          誕生秘話 3

          前回は、担当編集者である岩崎輝央氏より上手とは言えない字で、手書きの原稿依頼のお手紙をいただいたことをお話しました。 そして岩崎輝央氏のパートでは、本人は「むちゃくちゃうまく見せようとして(あの字を)書いた」という衝撃の事実が明かされました。 さて、そんなお手紙の中でいただいたのが「30代中盤の世代に向けた王道の恋愛小説」という投げかけでした。 「30代中盤の世代に向けた王道の恋愛小説」。特に難しそうなことではありません。ところがこの依頼、深く考えれば考えるほど厄介なもの

          誕生秘話 2

          編集者という仕事柄なのか。 それとも単なる僕の性癖なのか。 「新しい」 「他社がやっていない」 「これまで見たことがない」 こういう言葉に無性に反応してしまうのです。 そんなわけで、書店に行くとまずはとにかく新人の本を探します。 さて。 時は2017年、とにかく暑かった夏のとある昼休み。 その日も、新宿紀伊國屋書店本店の2階をぶらぶらしながら、新人作家の本を探していました。 文庫コーナーも一通り歩いて、そろそろ帰ろうかなというとき、初めて見る作家の作品を発見。 それ

          誕生秘話 1

           【スタート】 手紙を書くというのは、とても勇気のいることです。少なくとも私にとっては。「自分の気持ちを誰かに文章で伝える」ということ自体、なかなか大変かつ難しいことですが、私にとって手紙を書くことをさらに難しくしているのは、「字」そのものです。  お恥ずかしながら、私はかなりの悪筆で、しかも果てまで行ききって解読に特別な技術が必要な悪筆なら、それはそれで「味がある」「独創性の表れ」と言い張ることもできますが、私の悪筆はそこまでも行かず、なんとも微妙。「読めるけれども上手で