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「らしさ」から解放されて、 ハッピーで生きやすい社会に|如月かずさ(児童文学作家)【前編】AnoMartsインタビューvol.6

今回の如月さんのインタビューの中で出てきた「あわい」という言葉がとても印象に残りました。
「あわい」とは物と物との間という意味。
如月さんの作品はこの「あわい」をいつも大切にされていると思いました。
 私たちは、つい男らしさや女らしさだけを意識して生きていますが、その間にはさまざまなセクシャリティーがあり、そこで悩んでいる人もたくさんいると思います。たった2色しかなかったら世の中は味気ないものですが、さまざまな色があると気持ちも豊かになりますよね。
 如月さんの作品を読んで感じたのは、自分の中のこのあわいのグラデーションが広がるような気持ちになったということ。それがけっして堅苦しくなく、物語のキャラクターと一緒にポップに入ってくるのです。世間一般の「普通」「こうあるべき」「らしさ」に当てはまらずにLGBTQで悩んでいることは、社会のあわいのグラデーションの意識が広がれば減っていく問題でもあります。それは発達障害や他の障害でも同じかもしれません。
 このインタビューをきっかけに、ぜひ如月かずささんの作品を読んでもらえたら嬉しいです。前編では、『スペシャルQトなぼくら』と『シンデレラウミウシの彼女』についてお聞きしました。



『スペシャルQトなぼくら』(講談社)
あらすじ:ある日、中2のナオ(宮地)は駅で優等生ユエ(久瀬)の姿を見かけて驚いた。彼はメイクをしてかわいい服を着て街をさっそうと歩いていた。そんなユエに影響されてかわいいファッションが好きになり、どんどん仲良くなっていく二人。だが、ナオは複雑な感情も芽生えて、、、クエスチョニングをめぐる特別な絆の物語。


「男らしさ」や「女らしさ」だけでなく、
さまざまな「らしさ」から解放されて

●この物語はファッションがテーマですが中高生のファッションを描くにあたって、今時の流行などを研究したり、苦労した事はありますか?ちなみに、お話に出てくる街のモデルはどこですか?

 中高生のファッションについての知識はほとんどなかったので、図書館でティーン向けのファッション雑誌のバックナンバーを2年分くらいとっかえひっかえ借りてきて猛勉強しました。『nicola』と『ニコ☆プチ』と『Popteen』と『Seventeen』とほかにもいろいろ。ナオとユエが古着を買いにいく街の風景は、執筆時に近所に住んでいたこともあって、下北沢をぼんやりイメージしています。

●そうなんですね。僕も下北沢をイメージして読んでいました。
 ファッションについて都会と地方で求められる男性らしさ女性らしさの違いはあると思いますか?東京にいれば中性的なファッションで歩いていても全然問題はないと思いますが、地方だとファッションにもらしさを求められて息苦しい部分もある気がします。

 地方に行くほど男らしさや女らしさを求められるというのは、どうでしょう。年輩の方が極端に多い地域ではそういう空気も多少はあるかもしれませんが、ジェンダーレスなファッションにかぎらず、新たなファッションは一般的に都市部から地方に広まっていくものでしょうから、現在はまだあまり見られなくても、徐々に地方でも見られるようになっていくのではないでしょうか。

●僕が北海道出身なので、ファッションも地方に行くほど男らしさ女らしさを求められているという空気を意識してしまうのかもしれません。
 社会が求められる、男らしさ女らしさは時代とともにどう変化してきたと思いますか?

 例えばもし『スペシャルQトなぼくら』を出版したのが10年前だったら、いまほど広く受けいれてもらうことはできなかったのではないかと思います。社会は「男らしさ」や「女らしさ」にとらわれず、自分らしく生きることを尊重する方向に、徐々に進んでいっているのではないでしょうか。

●テレビで見たのですが、女子サッカーの澤選手が子どもの頃なんで女なのにサッカーやってんだよって子供の頃に笑われたと言います。でも、今はそういう事も少しづつ減ってきていますよね。

 そうかもしれませんね。しかし今度はその「自分らしく生きるべきだ」という風潮が、「ありのままの自分を隠して生きるのは間違っている」というような形で、新たな呪縛になりはしないかと懸念を抱いてもいます。「男らしさ」や「女らしさ」だけでなく、人々がさまざまな「らしさ」から解放されて、ハッピーに日々を送れる生きかたを気兼ねなく選べる社会になったらいいですよね。

●LGBTQという言葉が少しづつ広まり、同性愛やセクシャルマイノリティも知られるようになりましたが、その中でもこの物語では「クエスチョニング」をテーマにしたのはどうしてでしょうか?

 『スペシャルQトなぼくら』よりまえに、トランスジェンダーのキャラクターが登場するYAを書いたことがありました。結局満足なものを完成させることができず、お蔵いりにしたのですが、その物語を書きながら、自分が書きたかったのはトランスジェンダーよりも、もっとあわいにあるセクシュアリティのキャラクターなのではないか、と感じはじめました。クエスチョニングをテーマにした物語を書くことにしたのはそれがきっかけです。
 当初はさまざまなクエスチョニングの少年少女を主人公にしたオムニバス形式の連作短編にするつもりで、ナオとユエの物語はその連作のなかのアイデアのひとつだったのですが、具体的にアイデアを練っていくうちに、このふたりの物語をもっと書きたい、短編で終わらせるのはもったいない、と思うようになって、連作短編ではなく長編という形に変えることにしました。


『シンデレラウミウシの彼女』(講談社)
あらすじ:中学生のガクとマキは小さな頃からの幼なじみ。バスケ部も一緒で友達や兄弟、それ以上のものをガクは感じていた。ところがそんなある日、マキが突如として女子になっていたのだった!なんとか元に戻る方法はないか考える二人と、そこに不思議なクラスメイト神谷も加わり、それぞれの思いが交錯して、、、


同性同士の恋愛を描くことには、
抵抗はありませんでした

●マキがある日女子になっていたという設定に加えて、恋愛要素、ファンタジー要素、ミステリー要素が渾然一体となっていて面白かったです。この物語はどういうところから着想を得たのでしょうか?

 実質的なデビュー作の『サナギの見る夢』という作品で、カナというキュート系の男子を書きまして、書いていてとても楽しかったので、またカナみたいなキャラを書きたいな、と思ったのが『シンデレラウミウシの彼女』の出発点です。ただ、カナのような男子を主人公にして女子と恋をさせるのも、女子主人公にしてカナとの恋愛模様を描くのもなにか違う。そうだ、主人公を男子にすればいいんだ。そうすればしっくりくるな、と思いついて、あとはそのふたりを主役にどんな物語を書きたいか、という方向でアイデアを検討していった結果、『シンデレラウミウシの彼女』の物語が生まれました。

●BL的な要素がありますが、大きなジャンルとして人気があります。児童書で同性の恋愛を描こうと思ったきっかけはありますか?

 正直なところ、BL漫画には苦手意識があります。私が読んだいくつかの作品がたまたまそうだっただけなのかもしれませんが、唐突に性的な場面に飛んだり、その描写が露骨だったりして、そういうの苦手なんですよね。
 ただ、同性同士の恋愛を描くことには、もともと抵抗はありませんでした。『シンデレラウミウシの彼女』が出版されるまえにも、明確に恋愛感情を描いてはいなくても、BL風味の強い児童書はありましたから、それならはっきり同性同士の恋愛を描いてもかまわないだろう、という気持ちもありました。どうせなら児童書でないとできないような、性的な要素のいっさいないピュアピュアな恋物語にしよう、という方針で物語をつくっていきました。

●男子が女子になってしまう物語ですが、男性の方が男らしさに縛られている気がしますが、どう感じますか?

 子どものころから、男性が女性的な振舞いをしたり、女性的なものを好むほうが、逆の場合よりも不快な思いをすることが多かったような印象があります。
 男性のほうが男らしさに縛られているとしたら、そうした子ども時代からの経験も理由のひとつになっているのかもしれません。社会が「らしさ」にとらわれない方向に進むにつれて、そういった傾向もなくなっていくのではないでしょうか。

●確かに、例えば女性はファッションでも、ズボンもはけるしボーイッシュなオシャレもできますが、男性がスカートをはくことはあまりないですよね。
 人物を描く時にその性格やキャラクターはどうやって書くのですか?モデルなどはいるのですか?(特に神谷君というキャラクターがとても魅力的でした)

 現実の知りあいなどをモデルにすることはほとんどないですね。アニメの声のキャストに本職でない芸能人が混ざったときのように、違和感が生じてしまうことが多いんです。なのでキャラクターを生みだすときは、小説や漫画を読んだり、アニメを見たりして出会った「こういうキャラを書きたい!」というキャラの核となる要素をもとに肉づけをしたりアレンジをしたり、複数のキャラを組みあわせたり、べつのキャラとの関係性から形づくったりしています。

>>後編へ続く

プロフィール
児童書作家。『サナギの見る夢』(講談社)で講談社児童文学新人賞佳作、『ミステリアス・セブンス─封印の七不思議』(岩崎書店)でジュニア冒険小説大賞、『カエルの歌姫』(講談社)で日本児童文学者協会新人賞を受賞。その他の作品に「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)、「給食アンサンブル」シリーズ(光村図書出版)などがある。

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