見出し画像

マンガ「違国日記」を読んだら人生が変わった話

東京でひとりぼっちだった

東京で、私は1人だった。新卒で入社した会社を辞め、何も決まっていないのに住む場所だけを確保して、大阪から東京に引っ越してきた。

引越しで何もなくなった空間を見て、初めて一人暮らしをしたこの部屋も、初めて揃えた家具も、こんなにあっけらかんとなくなるんだと思った。カーペットがないむき出しのフローリングや、カーテンがなく外の様子が丸見えになった窓が虚しかった。

東京に友達はいた。みんな忙しそうだった。私が自分で選んだはずの選択に、戸惑い苦しいことを誰にも打ち明けられなかった。でも、誰かにわかってほしかった。何者でもない自分であることを実感するたびに、苦しくて、悲しくて、涙が出た。あの企業で働いていれば将来は安泰だった。あの先輩みたいにキャリアを積めた。あの先輩みたいに役職についてやりがいを持って仕事をすることができた。その全ての選択肢を選ばず、私は東京に来た。

どうすればいいかわからなくていつも不安だった。キラキラした目でキラキラした思いをもって上京した自分、という嘘の姿に擬態するべきだと思いこんでいた。だから本当はそうじゃないのが辛くて、よく泣いていた。自分で選んだ道なのに、人と違うことが嫌だった。怖くて仕方がなかった。

マンガ「違国日記」との出会い

そんなときに出会った作品がある。ヤマシタトモコさんの「違国日記」というマンガだ。人見知りな小説家と姉の遺児である中学生の女の子、歳の差がある2人が同居する様子を描く物語だ。

時間だけはたくさんあったので、書店をふらふらしているときに、ふとこの作品を手に取った。家に帰って、1巻を読み始め、1巻を読み終える頃には、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。だってこの作品は人と違うことを肯定していたから。人と違うことは当たり前だと、作品を通して登場人物が私に語りかけてきたから。

人は誰しも違う国に住んでいるのだから、わかりあえないのが当たり前でしょう、と。私にはあなたのことはわからないし、あなたには私のことはわからない。でもあなたが感じているその感情はあなただけのものだから、無理に誰かにわかってもらわなくていい。共感もできなくていいし、共感しなくていい。

私はあなたのことを理解できるかわからない。でも私はあなたの気持ちを踏みにじらない、とこの作品は訴えかけてくる。私が現実で言えないことを、登場人物が代わりに言ってくれたような気がした。私が現実でかけてほしい言葉を、登場人物が代わりにかけてくれたような気がした。

人は誰しも違う国に住んでいる

読み進めるにあたって、作品の中の言葉たちが、寒い日のコーンスープのようにじんわりと染みわたった。私は「人は誰しも違う国に住んでいること」を理解した。そして徐々に自分の状況を受け入れられるようになった。この作品は「誰かにわかってもらえる」と思っていた私の価値観を大きく揺さぶった。

「違国日記」に人生を変えられた。マンガは10巻まで出ていて、物語は2023年に完結している。2024年には新垣結衣さん主演で、映画化が決定している。人と違うことが嫌なとき、誰かに何かをわかってほしいとき、この作品を手に取ってみてほしい。

そして思い出してほしい。私は、私だけの国に住んでいることを。

この記事が参加している募集

読書感想文

人生を変えた一冊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?