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妊娠検査薬(掌編) / 20240424wed(399字)



「今日はおれが出すよ」
「じゃおねがい」
結は翔の頬にキスをして玄関をでた。
靴棚の横にゴミ袋を落として翔はしゃがむ。
第六感は的中した。袋の底に、白い棒を見つけて、摘みあげた。
妊娠検査薬だ。判定線はない。
ドアに翔は背を凭せる。南の窓に曇空が見える。
ベランダの向こうに濃い葉がみえる。階下の桜の木だ。
背中が下にずるずるとさがる。尻がついた。
「結となら欲しいな」
昨年の今頃、翔は結に言った覚えがある。
翔は四十六。結は四十二。
結が孕めば生活は一変する。
結は変化を求めているだろうか。
どんな顔でおれに打ち明けるだろうか。
今晩、結はどんな顔でこのドアを開けるだろう。
「ちがう。いまおれがそれを考えるべきじゃない」
曇空はゴロゴロと鳴りだす。
翔はゴミ袋を固くしばる。
「あと二年。いまは書く」
翔はドアを開けて、外階段を降りた。
雨が降り出していた。


短歌:

体調が
わるく日記が
書けぬなら
掌編かいて
良しとしようか

解説:今日の心境


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