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名誉ある僕の死について

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初めて完結させた小説です。
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記事一覧

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』①

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』①

起きると、いつもと変わらない光景が広がっていた。

厳密には、何もかもが違うはずなのに、
どうしてこう、変わり映えがなく、つまらなく感じてしまうのだろう。
昨日とは、違うはずなのに。

日常はいつもこうだ。
何かを追い求めて動いてばかりいる時は、とてつもなく時間が足りないようで、焦りばかりが助長されるのに、こんな風に起きる気もなく起きてしまう、気持ちの悪い朝は、ぼーっと寝室を見渡していても、昔読ん

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

ぜろ、ゼロ、零、Zero...

本当に不思議なことに、僕たちの関係性はまっさらだった。
昨日までは彼女の家のエレベーターが点検される日も、近所のパン屋の新しい営業時間も、外でキスが出来るちょっとした秘密の場所も、全て逐一発見されては共有されていたのに、手癖で点燈させたベッド上のスマホ画面には、今日はなんの通知も見当たらない。

僕たちは、それらがまるで見えていないかのように扱うようになるのかな。

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』③

外に出ると、息が少し白かった。

もうこんな季節か。思ってはっとする。
あと何回こんなふうに思うんだろう。同じことを繰り返す愚痴はマリみたいで、少し嫌気が差しながら。
でも、本当に、あと何度こんな日を迎えるんだろう。年老いても一人だったら流石に嫌だな。

「って俺、センチか。」

近くのコーヒー屋の少し重めのガラス扉を開ける。
店内には2組しか見当たらない。最近来なくなっていたのでわからないが、開

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』④

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』④

「予約してた秋元です。」
「アキモト様ですね。お連れ様はもういらしております。」
笑顔で通された先がまさかの個室で驚いていると、開けられた襖の奥には晃だけでなく健二もいた。

「どうしたんだよ、こんな店いつもとらないだろ。ていうか健二、久しぶり。面接とか調子どう?」
黒のダウンを脱ぎながら、問いかける。身体がいきなりの暖かさに驚いて、若干汗をかき始めていた。
晃は店員さんを呼び止めて、小さめの声で

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

"女々しい"なんて言葉、誰が作ったんだろう。

大正時代の男ならまだしも、令和に生きる僕には、男なのに"女々しい"感情がとにかく渦巻いていた。

最初のうちはよかった。晃たちと居酒屋でマリや彼女への不満を言い合ったり、しばらくぶりに各地に散った仲間たちと予定を合わせて旅行をしたり、楽しく過ごした。
正月を実家で過ごしたこともあって、大体1か月くらいは経っただろうか。
久しぶりにひとりの家に帰りつい

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

翌朝、あの日のように外に出た。
今度は11時くらいだったので、カフェの店内もまばらに人がいる。ベビーカーを連れた女性はあの日と同じ人だ。
今度は胃にやさしいカフェオレが飲みたくなって、いつかのテラス席から店員を呼ぶ。
バイトは、女子学生からパートらしき中年女性に変わっていた。

「しばらくお待ちください。」メニューを下げてもらい、改めて店内を見渡す。と、今日はベビーカーの中が見えた。
ベビーカーに

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