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(詩)ほたるの光

若い頃
小学校のそばの
アパートに住んでいた

休日の
土曜日の朝の眠りの中で
子供たちの声が聴こえた

古い木造アパートで
トイレは共同で風呂もなくて
隣りには愚痴ばかりこぼす
一人暮らしの老人が住んでいて

失恋した日は
アルバイトを休み
夕暮れまで
ぼんやりとひざをかかえ
校庭を見ていた

時にはみんなに
いじめられた誰かが
逃げ場所をさがし
やって来て
アパートの階段に腰をおろし
涙を流したり

突然の激しい夕立に
にぎやかな集団が
雨宿りをしにやって来た

そんなアパートで
少しの間、暮らしていた


彼らは一生
知ることもないだろう
自分たちが通う学校の
すぐ近くにあった
古びたアパートの一室

そこに
ひとりの男が住んでいて

夢を抱いて
上京して来たことや
ひとり都会のさびしさに
ふるえていたことや
女の子にふられて
めそめそしていたことなど

そして或る年の卒業式の
ほたるのひかりと共に
夢をあきらめ
アパートをひきはらい
いなかに帰って
いったことなど
知ることはないだろう


若い頃、東京の
小学校のそばの
アパートに住んでいた


※シーズンに合わせた再投稿です。

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