小説詩集「等価交換とさびしい小鳥」
彼の部屋の窓から雪が見えて驚いた。
「何が?」
「あれだよ」
あれは、雪じゃなく春のはなだよ、て言われてさらに驚いた。それで、凝視したら、今度はポップコーンにしか見えなかった。
「もう卒業するからさ、」
って話を切り替えたのは、さよなら、の後につづく言葉がいつだって途切れて飲み込まれてしまうから。
「さよなら、って言って次は?」
「ありがとう、かな」
「何に?」
いろいろひっくるめてさ、て言う彼の答えが私を悲しませた。
「あの時の笑顔が私を支えてくれたから、」
とか、そんな具体性を持たせたいじゃない。そうじゃなきゃ意味がないよ。
「ならそう言えよ」
彼は簡単に言うけど、心と心の距離感が言葉をとどまらせるの。
「伝えられなかったそのポイントがね、」
こだまして、追いかけっこしてるみたいに逃げてくの。
「追いかけるのを止めろ」
って彼は荷造りを再開した。
「あんたと一緒だったのが一番うれしかった、」
みたいな友達の言葉にうなずくけれど、それもね、受け取ると悲しみに変わったりもするじゃない。
「あの時がんばったよね、」
みたいな優しさも、心に染みたとたん苦しくなるみたいな。
「めんどい、」
お前も家に帰って引越準備しろよ、の彼の発言に、共有はむりなんだ、みたいになって私の心は小鳥になった。小鳥は口をつぐんで耳を澄ます。
はらはらと春が花を散らす音がする。出会いが私たちを旅立たせようとしてるのかしら。
「君はさ、消えた言葉を追いかけるけど、」
彼が言う。
「追いかけるけど?」
「追いかけなくったっていいんだよ、」
逃げた言葉はね、誰かに知られたがったりはしないから。
「つまり?」
「つまり、旅立つしかないんだよ」
「だよね、ポップコーンがはじけて散る前に旅立つか」
とか言いながら、なんだ、やっぱ追いかけっこなんじゃないか、て私はため息をつくのだった。
おわり
❄️何が?何が等価交換ですか?みたいな問いをよそに、漠然とそんな気がするの、みたいな無頓着さで書きました。春ははじまりだけど、終わりみたい、な声が木々のこずえからこだまします、的感傷です。届かなかった言葉を胸にまた書きます。ろば
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