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小説詩集「春の君占い」

髪を切ったとたん私は駆け出していた。

美容師さんは、オイルを揉み込もうとしていたけれど、私はもう立ち上がっていた。ケープをひらひらさせて、さらに風に飛ばされるのも見送って私は走ってた。

電車を降りたらスーパーに駆け込んで、ゴミ袋を大量購入した。

「部屋がちらかっていたんです」

これもいらん、あれもいらんてあえて分類しないでつめこんだ。

「時間の中でうずくまっていたんです」

じっと、もやもやの処理する時間をみおくって塞ぎ込んでいた。

「だけど、気がついたら時間が、」

「時間が?」

「時間だけがとっくに出発してて、私の記憶を置いてきぼりに旅立っていたんです」

「無責任だな」

「無責任なんですよ、で、」

網戸に引っかかったままパタパタ留まる枯葉みたいに悲しくなっていたんです。

「公園の枝に絡まってたあのマフラーみたいにか?」

頷くと、たまたまエレベーターに乗り込んできたその先輩がゴミ袋を半分持ってくれた。

「上、に行くのか?」

先輩はいぶかった。

「時間を追いかける訳ですから、上に行きます」

私たちはグワンと上昇した。まあるい光みたいなあの子の世界、この子の世界がバランスを保ちながらあちこち浮かんでた。その中を私は、さよならこの記憶、あの記憶って捨てながらのぼった。

「どんなゴミが多かった?」

先輩が聞く。

「誤解されたまんまの記憶ですね、」

がんばって、飲み込んで、迷惑かけんように頑張って、虫ケラさん同然になってゆく私の価値、みたいな記憶ですね。

「それがもう辛いんですよ」

「それでもやり抜いたんだろ」

とか先輩は言うけど、私の人間ランキングはさがりつづけるんですよ、とか思う。

「投げ出さないのは、褒められることに頼ってないからさ」

って先輩は言ってくれるけど、いや、その境遇に慣らされてるだけですよ、みたいにげっそりした。私たちを乗せたエレベーターが最上階で止まった。屋上という名の新たな時のドアをあける。

風が吹き込んで切りたての髪を、ようこそ、みたいに揺らした。

「やっと追いついたよ」

って、私は叫ぶ。大きくそう叫んだけど、もう愚痴は出てこなかった。時間が忘れてるんだから私も忘れるんだ、みたいに。

「あのさ、リアルゴミはさすがに一階にすてような」

とか先輩がいうので、私たちは屋上をあとにした。時間が町中の通りを駆け巡って、いま再び私に纏わりついてきたのがわかった。

「きっと、君、立春からいいことあるよ」

て先輩が占い師みたいに言った。

その言葉をなぜか信じられそうな私なのだった。

おわり

❄️宇宙の新年迎えました〜、的乙女な妄想でどんだけ自分が変われるか今から楽しみ、的気持ちで書きました。妄想だけじゃ変われない、行動あるのみ、とかがどんどん自分を攻めてくるので、小さな行動あるのみ、のスローガンに止める現状です。小さな行動おこしつづけてまた書きます。ろば



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