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小説詩集「かみさま辞令」

「エイプリルフールなのか、」

とか思って日付を確かめたわよ。

彼にそういったけれど、職場では口にしなかった。

「新しい部署にさ、配属されてたじゃない、わたし、」

けどさ、フロアーにいたのは私と先輩だけだったってわけ。

フロアの中に先輩と私だけが居て、メールやら電話にかけずり回ってたから、そこはとてつもなく広い空間に思えた。

今日はみんな出社しないのかなあ、とか思っていたら、

「上司たちは海外旅行の飛行機の中よ、」

て、先輩がさっして答えてくれた。

「そうですか」

みたいに言いながら、さらにハテナな顔をしていたものだから、

「あとは、法事やら、入籍やら、人間ドッグやら、歯のホワイトニングやらで、残りがテレワーク組よ」

って、答えてくれた。

「ランチなんてとれなかったわよ、」

だってリアル客がきて、あいさつしてったから。

「うん、」

先輩はね手際よかったわよ、どんなことにも果敢に対応できたから。

「私?」

私もビビりながらの四苦八苦してなんとかやてったの。その間、しかしこれはなあ、ないよな、みたいな不満が湧いてきて、で消えてった。

「だって、フル回転が一日中続いたんだよ」

先輩は、そんなの感じないのかなって思ってその横顔をみつめたりもしたの。

「だって、もう帰る身支度までしてるのに来訪やら、電話やらがくるのよ」

先輩は、白い、たおやかなスプリングコートを羽織ったけれど、また脱いで対応して、コートをもう一度羽織って、更にきた電話にでたのよ。その電話を切り終えた時、私先輩に聞いたの。

「ひどいですよね、これ。何かがこう理不尽な、」

みたいに憤りを吐き出すみたいに。

「わたしね、」

って先輩が答えた。

わたしね、神様直属なのよ、神様補佐な仕事をしているわけで、なので全てをうまく回したいわけよ。

「つまり、」

「つまり?」

「つまり、」

神様辞令を受け取ってるのよ、それだけ。

「なるほど、」

って、うなだれると、直後に電話が鳴った。先輩はもうでなかった。

「これは出ないんですか?」

とか聞いたら、

「年の離れた弟のね、塾のお迎え頼まれてるから、」

「それも神様辞令?」

「だね、」

って言った。

あの、それじゃあ私を先輩の直属にしてはくれませんか、みたいに懇願しそうになったけれど、それは違うなみたいに思ったの。

「それで?」

って彼が問う。

「私も辞令を受け取ることにしたわけよ」

「勝手にか?」

「自発的に、」

と言ってほしい、みたいに切りかえして、ズズっとラテを飲み干してたら、

「全てが神様辞令だから」

って聞こえて彼をみた。

「オレ、何も言ってないよ」

って彼は言ったけれど怪しかった。

おわり

❄️春から理不尽法則見つけ出す、なゲームが続きます。見つけ出したら、また歩き出す、みたいな旅が続きます。春だからよく出かけます。春だからよく食べます。春じゃなくても眠いんです。また書きます。ろば


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