小説詩集「まちぶせ」
何度も振り向いたの。
「何度も?」
うん、今も予感がする。
「予感?」
先回りしてるんだって、分かってる。
「一体なんのことさ、」
計算すると必ず間違いがある。報告したらミスも見つかる。出かけたら忘れ物をして、休日にはダラダラするの。
「つまり、」
まちぶせ。
持ってるものは必ずどこかに消えて探しても見つからないの、なんら壊れるし。
「つまり、それは、」
まちぶせ。
「考えすぎじゃないか?必ずなんてありえないよ」
じゃあ、このカフェを出て角を曲がってみてよ、何かがまってるから。
「いいことかも、」
100パーセントありえない。
「タロット占いしてただろ」
ワンドの10で、ゆたかさの循環が始まる的にでてたけど、結局くつがえされるのはわかってる。
「君は何か勘違いしてるよ?」
というと?
「君は僕が仕組んだことで、全て僕の計画通りに動いてる」
あなたが?
「君がやってることは1から10まで僕がやってることなんだ」
てことは?
「君はラッキーガールなわけで感情を享受できるんだ」
つまり、叱られたり、責められたり、困ったりするのは私ってことじゃない。
「僕も一緒に責められてるさ」
納得できなくて、じいっと私の前に座る彼を見た。
「あれも僕がやってることだよ」
とか言うので、彼といっしょにカフェを出て角を曲り、初詣しておみくじを引いてみた。大吉だった。
「ご感想は?」
うれしいよ、でもその先に不安がまちぶせるのよ。どうせ、当たらないから。
「二度大吉がでたら安心する?」
私たちは、電車にのって初詣をやりなおす。どうせ当たらんからって、手前のどうでもなさげなおみくじをつまみ出す。
「どうだった?」
大吉だった。それでも悪い予感は角のむこうにまちぶせる。
「もう一回引いてみる?」
何度引いても大吉なんでしょ。今日はどこの神社でも大吉しか入れてないんだよ、て私は不安に押し潰されそうになって自暴自棄になる。
「いい予感もさ、享受しろよ、だってそれは、」
あなたが全部やってることだから、でしょ。
彼が笑う。
前に進むのがこわくって、画面をポンポンするみたいに後退りしてしまうけど、昨日までの日記をぜんぶ消去してあなたと一緒に進んでみるか、みたいな勇気も湧いてこないでもないの。
彼が笑う。
鳩たちが何かをついばんで、一斉に飛び立った。
目を細め角の向こうに疑いの目を向けたけど、彼の腕に捕まって肩の力を抜いてみた。きっと大丈夫なんだな。
だって、こうやって大吉のおみくじを両手でビヨンビヨンさせてみるとなんだか辰の髭みたいで、大空にだって登っていけそうだしね。
おわり
❄️年の初めからビビりまくりの話を書いて、やや前向きだからご容赦ください、的勢いであげました。
ささやかなことが、苦悩より大きく思えるのは冬だから。
思い出したら痛いんです、とか漠然と乗り越えられんと思うことが立ちはだかるんです、みたなことが川みたいに流れてゆきます。それでも彼の腕につかまって力を抜くんだ、みたいにまた書きます。ろば
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