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楠本まき作品のはなし。


今ちょうど京都で楠本さんの展示をしているようで、タイミングも丁度良いかなと思って今日は楠本さんの話を。
今さら紹介しなくても、あまりにも有名だけど…


楠本さんの代表作といえば、やっぱりKISSxxxx。このnoteでも随所に出現しているカノンとかめのちゃんのお話。

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白と黒のシンプルで繊細な絵に、フォントや空間の使い方まで、芸術のようなコミック。

内容はバンドのボーカルであるカノン(竜太朗みたいなんだけれど、竜太朗が憧れてたのが先か、楠本さんが竜太朗をモデルにしたのか忘れてしまった。竜太朗が書く歌詞もオマージュみたいなものがあるけど、どっちがどっちだろう? どこかで書いてあったと思う。二人仲良しさんだよね)
と、そのバンドのメンバーである蟹ちゃんの妹のロリータ、かめのちゃんのお話。

プラトニックで温かく可愛い恋模様と、バンドメンバー達との日常を描いた、ほんの短いお話を纏めた本。

とてもサラッと読めるのに、絵も内容も大好きになってしまう、美しさと可愛らしさ、仲間の優しさに溢れた日常生活。

そのなんでもないような日常風景が、あまりに現実にはあり得ない夢の加護に護られた世界で、本当に羨ましくなってしまう。偶に織り交ぜられるカノンの悩みにも共感したりして。


ライブハウスのハロウィンやカウントダウン、皆で集まってみるホラー映画観賞会、皆で行った美術館や、行けなかった好きなバンドのライブ、お花見。植物園や水族館、動物園デート。公園でするお昼寝や花火。
この物語のどのお話も全て憧れ。

そういう憧れの一日にいつも付き合ってくれるのがrem.
水族館や動物園や冬の海へ行った時の話もまた書くね。


ライバルバンドの橘や、パンクバンドのミカミ、カノンのお姉さんの織る子さんも素敵だし、一瞬出てくる灰ニとか…登場人物みんな魅力的。

竜太朗の話をしたけれど、PENICILLINのHAKUEIがカノンを演じた映像作品があったりする。あれはなんの映像作品だったんだっけ…
どうでもいいけどHAKUEIが本名なの凄いよね。

以前も記事に書いた、カノンとかめのちゃんが同じ夢をみようとして使った眠り袋の実物。

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そして映画のようなKの葬列。

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不思議な住人ばかりのアパアトメントを舞台に、消えた死体の真相を追ったミステリ形式の話。

KISSxxxx以上に芸術的な装丁と絵で、全ての頁が美しい。
内容も退廃味のある耽美さで、芯はトーマの心臓のような系統の物語。

サイドストーリーのようなGの昇天は、ガーデニングをしている人の話で、これも植物と薬の関係を示唆する機能が美しく描かれている。
言葉少なく絵や配置で表現できるのが本当に素晴らしいなと感動する。


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乾からびた胎児は天才小説家と、それに拾われた美少年の話。と見せかけて…な内情が明らかになるんだけど。
この中の蓮見絹彦の日記がとても美しくて、乙嗣に心酔した文章表現が印象的だった。

なんとなくこの作品が好きな人は由貴香織里の少年残像も好きだろうなーというのがあるけど、どうでしょう。どうですか?

好きすぎてこれも何度も読み返してる。少年残像も。


致死量ドーリスは『望まれた女性』になる蜜の話。
欠落したものだらけの蜜に日に日に思考を侵食されて、最後は主人公の彼の方が『普通』を失ってしまう物語。
目に痛くない程度にサイケデリックな色を採用した全ての頁が本当にかっこいい。
この色も、それぞれの話に合わせた色を使っている。
きっと楠本さんご自身と装丁や印刷など色んな担当者さんが綿密に話し合って作り上げた作品なんだろう。


今にして思えば、この『望まれた女性像』を存在価値にする蜜や、『誰かに望まれた天才』を負担に思う蓮見やK。
まるで外国にしか見えないのにちゃんと日本人の名前をしている登場人物達。
不思議なアパアトメントの住人達。
当たり前に身に纏う奇抜な衣装。

普通とは何なのか?
自我とは何なのか?

そういう問い掛けをずっとしてきたのが楠本さんなのかなと思った。


読んだ学生時代の当時は絵が綺麗、かっこいい、耽美! 素敵! みたいな浅い見方しかしていなかったんだけれど、バンギャがいつでも普通という概念に反逆していた事を思い出す。


楠本さんは耽美ゴス漫画をやっていたというよりかは、パンクロックを漫画でやっていたのかもしれない。削ぎ落とされた美しさや、世間という目線をどこかで皮肉った台詞の溢れる芯の強いキャラクター達を通して、いつも楠本さんご自身の在り方が美しいのだと感じる。


短編集T.V.eye(タイトルは勿論イギーポップから)の表題作も、ドイツ映画みたいで好きなんだけれど、カメラ・オブスキュラの、箱の中で生きる無気力な青年が、突然やってきた正反対に自由奔放な女性につられて箱から出る選択をする話も好き。

Ch-11は双子の少年の話で、これもアイデンティティを描いた意味深い話。
……ラストの「実は私は天使なんだ」っていう台詞、もしかしてベルリン天使の詩みたいな意味か。そういう天使のおじさんなのかもね。

自分が紹介できる楠本まきはこれで全部。
どれも洋画みたいで本当に好きな作品。
これを書いてたら読み返したくなってしまった。

電子書籍になってるものも多いだろうけど、楠本まき作品は、絶対に紙がお勧め。


これまでサポートくださった方、本当にありがとうございました!