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一時間半見なければならない地獄のマリウポリ

『マリウポリの20日間』(2023年製作/97分/G/ウクライナ・アメリカ合作)監督:ミスティスラフ・チェルノフ


ロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間を記録したドキュメンタリー。

2022年2月、ロシアがウクライナ東部ドネツク州の都市マリウポリへの侵攻を開始した。AP通信のウクライナ人記者ミスティスラフ・チェルノフは、取材のため仲間と共に現地へと向かう。ロシア軍の容赦ない攻撃により水や食糧の供給は途絶え、通信も遮断され、またたく間にマリウポリは孤立していく。海外メディアのほとんどが現地から撤退するなか、チェルノフたちはロシア軍に包囲された市内に留まり続け、戦火にさらされた人々の惨状を命がけで記録していく。やがて彼らは、滅びゆくマリウポリの姿と凄惨な現実を世界に伝えるため、つらい気持ちを抱きながらも市民たちを後に残し、ウクライナ軍の援護によって市内から決死の脱出を図る。

チェルノフが現地から配信したニュースや、彼の取材チームが撮影した戦時下のマリウポリ市内の映像をもとに映画として完成させた。2024年・第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞し、ウクライナ映画史上初のアカデミー賞受賞作となった。また、取材を敢行したAP通信にはピュリッツァー賞が授与されている。日本では2023年にNHK BSの「BS世界のドキュメンタリー」で「実録 マリウポリの20日間」のタイトルで放映された。2024年4月に劇場公開。

マリウポリに地獄を見る。誰がこの戦争を止められるのか?戦争の姿がここにある。無慈悲な神なき世界だ。テレビでながら見していたが、ことの重大さはただ見るしかないのだ。世界の滅びの姿を。映画館での一時間半を耐えるのも苦痛なのに、それが20日間。いや、この映像からすでに二年も過ぎているのにこの悲惨な世界は終わらないのだ。

ロシアの破壊を止めることは出来ない。ただこの世界を見るのだ。神でもないのに。地獄はここにある。平和はこの世界にはない。積み重ねた死体と破壊の街だけなのだ。ただ見るだけなのだ。神でもないのに。

戦争はレントゲン写真のように人間を見せると医者は言う。善人は善人として振る舞うが悪人は悪人として振る舞う。そのどちらでもない我々はただ見るものに過ぎないのか。この病の世界を。


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