見出し画像

フェリーニの『道』のようなイリナのルーマニア

『優しい地獄』イリナ・グリゴレ

社会主義政権下のルーマニアに生まれたイリナ。
祖父母との村での暮らしは民話の世界そのもので、町では父母が労働者として暮らす。

川端康成『雪国』や中村勘三郎の歌舞伎などに魅せられ、留学生として来日。
いまは人類学者として、弘前に暮らす。

日々の暮らし、子どもの頃の出来事、映画の断片、詩、アート、人類学……。
時間や場所、記憶や夢を行ったり来たりしながらつづる自伝的なエッセイ。

出版社情報

イリナ・グリゴレ『優しい地獄』はルーマニアから日本の舞踏を学びにやってきた女性のエッセイ。もとは映画を撮りたかったのだがドキュメンタリー作家になろうとして文化人類学にハマる。日本では獅子舞の研究とか。ルーマニアのジプシーのような祖母の話とか映画を目指した学生時代の辛い話とか(映画は男社会であり、なおかつルーマニアの社会主義的閉鎖社会)、癌になった話(チェルノブイリが影響していると書いているのだが)。タイトルの「優しい地獄」とはルーマニアのことではなく資本主義社会のことらしい。

チャウセクス政権下のルーマニアで過ごした青春時代。抑圧と前世紀的な神話世界が映画のように混じり合う。エッセイだけど神話を語るような自叙伝。

キリスト教以前のファンタジー的な神話や映画の創世記のような世界が好きな人は気に入ると思う。ジプシー性というようなノマドの人。それは自由を望むから様々な抑圧を受けるのだし、彼女には幸せが待っているのだと思う。最後に笑っていられるかという言葉がすべて。

ルーマニアという伝説の国のように思えるが、そういうのは日本の中にもあったのだし、忘れた記憶を思い出させてくれるような本かもしれない。幼年時代の驚きの世界を。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?