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「卒業」 青山勇樹

 「卒業」という詩を紹介します。

きょうの言葉はきょうのうちに
見えない風の粒々になって
いつか吹きぬけてゆくはずなのに
静まりかえった青に染められ
さよならの声がたちどまる

記念写真の隅で息をこらし
時計をとめてまばたきをする
すべてはその一瞬に
思い出という装いをはじめる
だからもう制服はいらない

誰もいないグランドに
ふと遠い喚声がこだまする
おもいがけなくよみがえるのは
あつい鼓動と
テニスボールの真新しい匂い

追憶とは忘れているものだ
想いだすときにはいつも
忘れていたということに気がつく
それはすこし恥ずかしいから
懐かしいなどとつぶやいてみる

さしだすひとつの掌があり
うけとる確かなぬくもりがある
ひかりはこぼれあふれていて
まぶしさに瞳をとじるのではなく
見つめるまなざしこそがまぶしい

扉をあけてでてゆこうとすると
私の胸から白い炎が翔びたつ
高みでひとしきりきょうの風にゆれ
やがてはばたく翼のかたちで
どこまでも舞いつづける

あなたの心に、言の葉を揺らす優しい風が届きますように。光と戯れる言葉のきらめきがあふれますように。