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【連載小説】雨がくれた時間 2.十年の歳月

前回の話はこちら 第1章「思わぬ雨」


       2 十年の歳月
 
 雨粒が透明なビニール傘を流れるように滑り落ちていく。
 腕に抱えた紫陽花はしっとりと濡れて、みずみずしさを取り戻していた。
「あれから十年も経ったなんて……」
 木々に覆われた緩やかな上り坂に、降りそそぐヒグラシの声。この坂道を登りきればあの人がいて、私を一緒に連れて行ってくれる。そんな起こりうるはずのないことを期待しながら、風に揺れる木洩れ日を車窓からただぼんやりと見つめていたあの日が、ついこの間のことのようだった。
「案外、やっていけるものなのね」
 この十年の歳月は決して平坦なものではなかったけれど、意外なほど穏やかに過ぎていった。それを知ることが出来ていたら、どれほど救われただろうか。けれど、あの頃の私は今よりもずっと意地っぱりでひどく思いつめていたから、なんとかなるなんて告げられても素直に信じることは出来なかっただろう。
「誰かさんなら『あの頃どころか今でも充分、意地っぱりだろ』って、笑うわね」
 口の悪い、けれど、心地のよい低い声が頭をよぎって、自然と頬がゆるむ。

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 そんな自分の反応にいまさらながら驚いて、気がつくとその場に立ち尽くしていた。
「どうして今……よりによって……」
 “誰かさん”のことをふと思い出しただけで心が弾むというその事実は、私に今日もう何度目かわからない大きなため息をつかせた。

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(続)

 

第3章「あなたの返事」はこちら






Twitterの診断メーカー『あなたに書いてほしい物語3』
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#書き出しと終わり から

「雨が降っていた」ではじまり 、「私にも秘密くらいある」がどこかに入って、「あなたは幸せでしたか」で終わる物語を書いてほしいです。

というお題より。

もしかしたら「あなたは幸せでしたか」では終われないかもしれない物語です。

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