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Appleのシンプルとは。ジョナサン・アイブがデザインについて語ったことまとめ

Appleのデザイナーであったジョナサン・アイブ(Sir Jonathan Paul Ive)がこれまでにメディアのインタビューなどで、デザインについて語ったことをまとめ、Appleのデザイン哲学(例えばシンプルとは何か)を探る記事です。

Apple製品のデザインを読み解く上では、Appleのデザインをリードしてきたジョナサン・アイブの発言に着目するのが非常に有益です。

これは主に個人的な必要性からまとめるものですが、ばらばらになっているジョナサン・アイブの発言を1か所に集めることは他のAppleファンにも有益だと思ったので、記事として公開します。

基本的に日本語のサイトからの引用になるので、発言はすべてそのサイトのライター等による翻訳を通したものであることにはご注意ください。(抽象的な議論が多いので、翻訳は難しく必ずしも正しいとは限りません。しかし、労力の点から、ひとまずは日本語サイトからの引用にとどめます。)

また、ジョナサン・アイブについて言及した記事は膨大で、現時点ですべての記事を網羅しているわけではありません。随時更新していきます。


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この写真は、写真家のアンドレアス・グルスキー氏の手によるもの。イギリスのインターナショナル・ポートレート・ギャラリーに展示されているそうです。


デザイン一般について

あなたは機械の外側(見た目)をデザインしているんですよね?
アイブ氏「たんに見た目だけに注目していれば、いい仕事をしているとは言えないと思います。いい仕事をするには、内部構造もデザインすることになります。」

機能しない美しい製品は醜いです。私たちがこれまでやってきた最良のことは、完全に調和することです。デザインとはすべてのことです。美しさはうまく動作することの中にあるのです。
Appleのジョナサン・アイブ氏が語るiPhone 6・Apple Watch・ジョブズ・模倣
http://okaymac.com/2014/10/19/jony-ive-vanity-fair-summit-interview/

「まっとうで理にかなったオルタナティヴなど存在しないという意識をもつことだと思う」
『ジョナサン・アイヴが答えた「アップルのデザイン」:そのルーツからApple Watchに至るまで #WXD
https://wired.jp/2015/03/09/apple-watch-jonathan-ive-wxd/

Appleの新製品が出るたびに、これこそが唯一の答えなのだと感じさせてくれる理由ですね。


「多くの人は『シンプルである』ことについて、『ごちゃごちゃしていない』ことだと思っていますよね。でも実はそうじゃない。真にシンプルなものは、自身が何者であるかをとても直接的な方法で伝えてくれるんです。あまりに自然に目の前に存在しているがゆえに眼に入らないような製品をデザインするのは、とても難しいことなのです」
ジョナサン・アイヴがアップルを去る「本当の理由」
https://wired.jp/2019/08/25/jony-ive-apple-lovefrom/


「私たちデザイナーの仕事は、人々が存在に気付いていない問題を解決することです。ただし、ユーザーにその問題の所在を気付かせずに問題を解決するのです」
ジョナサン・アイブ氏、デザイナーとしての哲学や次世代Apple Watchを語る
https://iphone-mania.jp/news-114109/


デザイナーとして悩ましいのは、物理的に存在する形が、その機能を理解する上において重要であるにもかかわらず、形あるものを取り除くためにデザインしているというパラドックスがあるということです。デザインのシンプルさは、ユーザーのコンテンツを最適な状態で提示するためのものです。もちろん、それが崇高で根源的なデザイン哲学であると考えていますが、シンプルにすることがすべてだとは思っていません。例えばかつての携帯電話のディスプレイは、単独の機能しかありませんでしたが、思い出すと不思議な気分になりませんか? 
『ジョナサン・アイブに聞く《iPhone X》のデザイン哲学とは?』
https://casabrutus.com/design/56772/2


わたしはここで、アイヴに「自分のやっていることをアートと呼べると思うか」と質問した。
彼の顔にいたずらっぽい微笑みが浮かんだ。「アートだとは思わないね。これはデジタル音楽プレーヤーなんだ。アートが目指すところは自己表現だろう。この製品のゴールは、人々が熱意をもってつくられたデヴァイスで音楽を聴けるようにすること。細部にまできちんと注意が払われ、それをどこまでも洗練させていくための努力がなされているような製品なんだ」

『「アップルの美学」そのものであるジョナサン・アイヴと、精神的な同志だったジョブズが共創したもの』
https://wired.jp/2019/06/29/reminiscence-of-jony-ives-design-legacy/


形状は材料と切り離せないし、材料の製造プロセスとも切り離せません。それらは一体となって開発されるものだと強く思います。製品は、製造方法と切り離してデザインすることはできません。そこには重要な関係があるのです。
 
良い方向に変わるのであれば、我々は自分たちに制約を設けません。そして我々は、良くならないのに単に変える、ということはしません。

『デザイン責任者が語る、MacBook ProのTouch Barに込めた哲学!』
https://iphone-mania.jp/news-142961/



メカニカルなものを手にする時、デザインの全体に気を配るのはとても重要なことだと思います。色、形、全体的な構造、そしてより定義しにくい、何かが閉じたと感じるカチッという音や磁石の力といった、概念的な動作です。
『Appleのデザイン最高責任者アイブ氏、AirPods開発で一番苦労したのは?』
https://iphone-mania.jp/news-243244/

製品は、顧客のために作るものなのです。そして、顧客には製品に込められた配慮(care)や誠実さ(integrity )を感じ取り、享受する力があります。彼らは、実際に言葉で指摘し表現するよりも、はるかに多くのことを感じています。たとえば、誰かに「この製品のどこに魅力を感じますか?」と尋ねたとします。大抵の場合、彼らは説明に苦労するでしょう。しかし、言葉で説明しにくいところこそ、直感的に感じた何かがあるのです。
『アップルに魅了される理由とは。ジョニー・アイブに聞きました。 (前編)。(Saori Masuda)』
https://www.vogue.co.jp/fashion/editors_picks/2018-11-20/saori-masuda

Apple製品の見た目を真似ても、なぜかApple製品のようにはならない。それは、ほんのささいなディテールにすら意識を向けているからなのでしょう。


(ディスプレイの角が丸いことを指摘して)
以前から、製品を見てバラバラの部品の寄せ集めのような印象を受ける度に、少しばかりの悲しさと失望を感じていました。もちろん、ディスプレイもシリコンも、すべて自社で開発したものではあるのですが。ただ、製品が個別の部品の寄せ集めにすぎないという感覚があると、製品体験自体ががらりと変わってしまいますし、がっかりします。一方、新作のiPadとiPhone、Apple Watch Series 4は、完全に一体化されていると感じます。ディスプレイと物体(モノ)の境目があるようには感じられず、高度に一体化された製品のように感じられるのです。
『なぜ私たちはアップル製品に魅了されるのか。ジョニー・アイブに聞きました(後編)。(Saori Masuda)』
https://www.vogue.co.jp/fashion/editors_picks/2018-11-21/saori-masuda


「われわれが日々の暮らしのなかで触れる製品は、ただのチップや部品の入れ物に過ぎません。そんななか、私が新しいiPadやApple Watch、そしてiPhoneづくりで心血を注いだのは、ディスプレイに表示された内容まで含めて、これがひとつの製品としての体をなし、ただの個々の部品や技術の器だとは感じさせないように仕上げることでした」。
【特別対談】世界を変えた工業デザイン ジョナサン・アイブ × 深澤直人
https://www.axismag.jp/posts/2019/06/135123.html



iMac G3について

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Apple

「ぼくらが心をこめて取り組んでいたのは、新しくて革新的だけれども、同時にどこか親しみのあるものや製品、アイデアを生み出すことだったんだ」とアイヴは言う。
『ジョナサン・アイヴが答えた「アップルのデザイン」:そのルーツからApple Watchに至るまで #WXD
https://wired.jp/2015/03/09/apple-watch-jonathan-ive-wxd/

iMac G3のデザインは、やはり、これが登場した時代のほかのPCとの関係性によって正当化されるものなのかもしれません。いま同じことをやってもうまく機能しないでしょう。


Power Mac G5について

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「絶対に必要なもの以外はすべて取り除きたかったのだが、そんな努力をしたようには見えないだろう。何度も繰り返し最初の段階に立ち戻った。この部分は必要だろうか? 他の4個の部品が持つ機能を、1個の部品で実現できるだろうかと」

 「(ハードディスクの増設が)こんなにもシンプルに見えるのは、取り付けやアップグレードを容易にすること、しかもそれを優れた方法で実現することに細心の注意を払ったからだ」とアイブ氏。「だが、そういった工夫はいっさい、見た目にはわからない」

 「強力だと見せかけようとしたりしない方が、本当はずっと強力なのだ」とアイブ氏は答えた。「私は(G5を)道具だと思っている。きわめて強力な道具だ。これが本当に強力な道具だという事実に、安っぽい見せかけを付け加えたりはしない。これがあるがままの姿だということは一目瞭然だ」

 さらにアイブ氏は続けて、「デザイナーの観点から言えば、これは外見の勝負ではない。とても実用的なことだ。真にミニマルな方法で素材を使うということなのだ」と語った。

『アップル社トップデザイナーに聞く『パワーマックG5』の秘密』
https://wired.jp/2003/06/26/アップル社トップデザイナーに聞く『パワーマッ/

この考えは今のMac Proにも通じるところがありますね。


iPhone 6について

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「数年前、大きな画面をもったプロトタイプを製作しました。ノートブックみたいに大きな画面を持つというのは興味深い特徴でした。しかしそれらは不格好だったので、結果はお粗末なものでした。私たちの競合他社が依然としてそうであるようにね。そのとき、魅力的な製品にするために、画面を大型化するのと同時にたくさんのことをする必要があるとわたしたちは認識したんです。iPhone 6 の丸いふちは、快適さと、幅広さをあまり感じないようにするために必要だったんです。」
Appleのジョナサン・アイブ氏が語るiPhone 6・Apple Watch・ジョブズ・模倣
http://okaymac.com/2014/10/19/jony-ive-vanity-fair-summit-interview/



iPhone Xについて

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これ以前は、エンクロージャー(筐体)とディスプレイという、個別のコンポーネントが存在している感覚がありました。私たちが常に目指していたのは、その異なる部品と考えていたものを統合させるという本質に取り組むことです。
『ジョナサン・アイブに聞く《iPhone X》のデザイン哲学とは?』
https://casabrutus.com/design/56772/2

デバイス自体に施された角丸とディスプレイの角丸が共通している点や、ディスプレイを覆うガラスと筐体がなめらかに繋がって一体になっている点が、iPhone  Xのデザインの重要なポイントですね。


Apple Watchについて

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Apple Watchの存在感の大きさゆえ、文化的・歴史的な位置づけが難しく、悩ましかった

我々は、身に着けるものは選択肢があることを期待している。皆が同じものを身に着けるのは監獄にいる時だけだ

『「Apple WatchのデザインはiPhone以上に大変」デザイン責任者が吐露』
https://iphone-mania.jp/news-51474/

AppleのARデバイスも、やはり見た目はいろいろなものが選べるようになって欲しいですね。


AirPodsについて

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私たちが最も苦しんだことの一つは、AirPodsをケースに入れる向きでした。私はこの細部が大好きです。
 
AirPodsは、使う人に負担を強いることなく、人々が意識している以上に、使うことの喜びをもたらしていると思います。

『Appleのデザイン最高責任者アイブ氏、AirPods開発で一番苦労したのは?』
https://iphone-mania.jp/news-243244/

AirPods以降に登場したワイヤレスイヤホンは、AirPodsとは異なるケースへの収納方法を採用しているものが多いのですが、そうした方法もすべて試した上でのAirPodsのケースということなのでしょうね。変な形のデバイスなのに、わりと取り出しやすいのは偶然ではなかったと。


Apple本社(Apple Park)について

「馬鹿げた質問だとは思うんだが」と、わたしは口にした。「なぜ4フロアにまたがるガラスのドアが必要なんだろう?」
アイヴは眉を持ち上げて、「それは必要性をどう定義するかによるだろうね」と答えた。

水道管や電線管などは梁の内部に収納され、駐車場ビルにいるような感覚はまったくない。アイヴはこの建物の「斬新さ」と呼ぶものについて、「別に高価なコンクリートを使っているわけじゃない」と言う。「細部まで注意深くデザインを発展させること、そして自分の考えを貫き通すこと。簡単でみんなが反対しないような標準的な仕事のやり方はしない。それだけだ」

薄く軽量で完璧な白色をしたコンクリートでできており、壁から削り出されたような独特な形状の手すりがついている。アイヴは普通のやり方をするであろう者たちへの大いなる軽蔑を露わにして、「手すりはネジで取り付けることもできるが、それは本質的には後づけのやり方だ」と言う。「でも根本的にはデザインで解決できることなんだ」

『ジョブズが遺した「宇宙船」──その“狂気”のデザインと魔法の力』
https://wired.jp/special/2017/apple-park/


他の記事は、また時間のある時に追加していこうと思うます。心当たりのある方は記事のリンクとかをコメント欄にでも貼っていただけると助かります。


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