ショートショート『勇気』


卒業式が終わった一人の帰り道。

彼女についに告白できなかった……、

意識したくなくても後悔が大きくなっていく。

向かいから学生服姿のカップルが歩いてくる。

卒業証書のケースを持っているが、僕とは別の高校のようだ。

うつむいたまますれ違うと、男の子のほうが声をかけてきた。

「これ、あげるよ」

そしてポケットから赤い、小さな星のようなものを取り出した。

「え……!」

ふいをつかれたせいか、

僕は差し出されたその星のようなものを、思わず受け取ってしまった。

それはすべすべしていてほんのりあたたかく、かすかに赤みが強くなったり弱くなったりしている。

受け取るとき思わずにぎりしめたが、何か不思議な気持ちになった。

「これは何?」

「小さな勇気、だそうだ」

勇気?……ってこんな形で目に見えるのだろうか??

「……僕にはもう必要ないから」

男の子はそういって、女の子と目をあわせて微笑んだ。

そしてそのまま、行ってしまった。

僕は一人残され、どうしたものか考えた。

また、手の中の星をにぎってみた。

さっきはわからなかった感情……『小さな勇気』がわいてくる。

僕は学校への道を、全速力で引き返した。



(了)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?