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極貧詩 329             旅立ち⑭

ヤッちゃん、シゲちゃんの順に饒舌に心の内を吐露
まるで前から決めていたかのように思いの丈を語る
今度は当然俺が自分の思いを2人と自分に語る番だ

心の中には過ぎし日々の思い出がゴッソリ詰まっている
言葉に出してしまうと陳腐になってしまうかもしれない
それでも今がしっかりと思いを伝える最後のチャンスだ

気づかれないようにまずはゆっくり呼吸を整えた
言いたいこと、伝えたいことがほとばしり出そうだ
ヤッちゃんとシゲちゃんに交互に目を合わせる

「俺の方こそ2人には心から本当に心から感謝しているよ」
「貧乏三羽烏なんて残酷な言葉で呼ばれてたっけな」
「本当だから仕方ないにしてもちょっときつかったよな」
「でもヤッちゃんもシゲちゃんもあっけらかんとしていたよね」
「うん、そうだ、そうだ、だから何、何か問題でも、ってね」
「俺はその言葉や態度にずいぶん救われたよ、ありがとう」
「特に小学校の時なんか、給食だけ食いに来る奴ら、って言われたよね」
「給食費払わねえくせによく食えるよなって陰口言われたよね」
「でも平気な顔して元気に学校中で遊び回っていたよな」
「俺はそんな2人がいてくれてすごく心強かったよ」
「貧乏な奴は勉強もからっきしできねえってよく言われたよな」
「そりゃあそうだ、授業中は上の空だし宿題もやらねえしな」
「通知表は電信柱とアヒルだけだったもんな」
「だけど辛うじて体育だけは4とか5とかもらったよな」
「ヤッちゃんは毎日家の手伝いよくやってたよな」
「シゲちゃんも家の手伝いや弟の世話よくやってたよな」
「俺も2人に刺激を受けてよく家の手伝いはやったよ」
「その延長で新聞配達やったり夏の山の下草狩りのアルバイトもやった」
「それもこれも見習うべき2人がいてくれたからだよ、ありがとな」
「道から石を投げられるようなボロ家に住んでいたけど我慢できた」
「ボロ家、ボロ家、物置き小屋、あばら家、まあいろいろ言われたよ」
「そんなときは2人の真似させてもらったんだよ」
「うん、そうだ、そうだ、だから何、何か問題でもってね」
「そうすると現実は変わらないけど、何だかちょっと心が落ち着けたよ」

ヤッちゃんとシゲちゃんはじっと黙って俺の話に耳を傾けている
時々、うん、うんと頷くように首を振っている
貧困という3人の共通項が同じ重みを持って胸を去来しているのだろうか
時々下を向いたり上を向いたり、俺に視線を返したりしている
俺の話は湧き水のように後から後からしみだしてくる


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