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赤ちゃんが生まれても美術館をあきらめない!「楊洲周延展」 赤ちゃんご機嫌な作品をレコメンド!

町田市立国際版画美術館さんと、11月15日(水)に「赤ちゃんのための鑑賞会」を実施しました。
0歳6ヶ月から0歳代が4組、1歳が2組、2歳と5歳のお子さんがそれぞれ1組、8組の皆さんと「楊洲周延 明治を描き尽くした浮世絵師」展を鑑賞しました。

楊洲周延は、展覧会のキャッチコピー「武士から絵師へ 絵筆で時代を切り拓く!」の通り、幕末から明治にかけて大活躍した浮世絵師です。
楊洲周延にフォーカスした展覧会としては近年最大規模とのことで、町田市立国際版画美術館の学芸員さん方、村瀬可奈さん(現在は東京国立博物館研究員)と宮崎黎さんのご研究が結実した充実の展示内容となっています。

さて鑑賞会。
まず、0歳9ヶ月の赤ちゃんと参加したお母さんのご感想を見てください。

赤ちゃんが生まれて美術館に行くのはあきらめないといけない、1人でひっそり行こうと思っていたので、一緒に楽しめるというのはうれしい発見でした。
色々な美術館に行ってみたいです」

…「あきらめないといけない」「1人でひっそり行こうと思っていた」という言葉がせつない。
美術館をあきらめている方、美術館に赤ちゃん連れで行って悲しい思いをした方は、きっとたくさんいると思います。

去年、妹から「お姉ちゃんの活動をもっと知ってもらったらいいのにね」と教えてもらったブログを思い出しました。
フリーアナウンサーの方で、赤ちゃんを連れて、ものすごく久しぶりに美術館に行ったら、入ってすぐ大泣きして、慌ててお菓子を口に入れてしまって係の方に注意され、退場(再入場できない美術館だったそうです)。マナー違反をしてしまったことや、いたたまれなさにご自分も涙が…といった内容でした。

小さい子を連れて美術館へ行くのは、本当にハードルが高いですよね… 

年に1回、数年に1回、ごくたまに。思いきってチャレンジして、結果が辛いと悲しいです。
書いて気づきました。「チャレンジ」っていう状態なんですよね。

周りの方に迷惑にならないようにするのは、とても大切なことなので、美術館で子どもにどう接するか、ちょっとしたことなんですけどあれこれ工夫を知っていると、意外と泣かずに過ごせる。
そんなことをお伝えする活動を13年続けているのですが、自分の発信力のなさ、非力さを感じることが多々あり、なるべく発信をと取り組んでいる近年です。

「赤ちゃんが生まれても美術館をあきらめないで大丈夫」と知っていただけたら。

そこでこの記事では「楊洲周延」展の鑑賞会で、実際に、赤ちゃんたちがご機嫌で注目した作品をご紹介します!

どうぞ小さい子と美術館に行ってみたいと思っていらっしゃる方がおられましたら、これらレコメンド作品のところへ、スイーっと行って鑑賞していただけたらと思います!

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町田版画美さんの展示は、毎回、作品点数がとても多く、今回も前期後期で170点展示替えしたとのこと。すごい量です。

この膨大な作品数のある展示室すべてを鑑賞するのは、親子ともに気力体力的に無理があります。そういう時は、重点的に鑑賞していただく箇所を決めてご案内しています。

展覧会を大人が楽しむ鑑賞としては、1章から丁寧に観ていくのが最善です。学芸員さんの意図がわかり、学びあり発見あり、とても素敵だからです。

でも小さい子と行く時は、子どもの不安が大きくならないよう、子どもが興味を持てるような作品のところへ連れて行くことをお勧めします。

「楊洲周延」展では、展示室3「第7章、第8章」が小さい子にお勧めです
周りの人に迷惑にならないよう、そーっと素早く行ってみてください。

展示室1・2の圧倒的な描き込み感のある作品も、大人の方にも子どもたちにも観てもらいたいですが、なにしろ数が多いので疲れてしまう可能性があります。
よって、まずは「疲れず楽しく出会える作品」へ。

余力があったら1章に戻って鑑賞。
鑑賞会では、1章に戻り、大人の方向けに学芸員さんと解説して巡りました。

個人で行った場合、「今日はゆっくりするぞ」とお昼ご飯をはさんだり、お子さんが昼寝したらベビーカーや抱っこ紐で大人がゆっくり見る、というのも過ごし方の1つです。

展示室3には、女性の顔が大きく描かれた作品がずらりと展示されています。
等身大くらいのお顔を目の前で見ることができるので、より「人と出会った感じ」がする作品群です。

さらに、展示室1・2にある作品よりも、背景が描きこまれすぎていない作品が多いです。
それにより、人物や置かれている物の形が、わかりやすく見えます。

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0歳9ヶ月のお子さんが3人、その全員が『真美人』というシリーズ作品に注目していました。

『真美人』は展覧会図録によりますと、手習をする少女から新聞を読む大人の女性まで、明治に生きるさまざまな女性を描いた揃物とのこと。『髪の一本一本まで丁寧にあらわし、微妙な個性を描き分けた、まさに題名のとおり真を写した人物描写に見どころがあります』(展覧会図録より)。

『時代かゞみ』も0歳9ヶ月のお子さんたちはよく見ていました。同じく女性の顔が大きく描かれているシリーズです。こちらは建武期(1334ー36)から明治期までの女性の髪型や服装を時系列に描き分けた作品なのだそうです。

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0歳のお子さんたちは、風景と女性像が絶妙にマッチした作品も見ていました。

Sちゃん(0歳9ヶ月)は『名勝美人会』シリーズの『丹後天の橋立』と『日光霧降滝』をチョイス。

アニメ「サザエさん」のオープニングのように、名勝をバックに大写しの女性がたたずむ作品です。サザエさん制作陣はこれら浮世絵をリスペクトして作ったのか?と思いたくなります。

『日光霧降滝』は滝の落ちる様も独特で、「これは必ず赤ちゃんが見るに違いない」と予測していた作品でした。

予測も当たり外れがあるもので、『幼稚苑 えびす鯛』は、赤い大きな鯛のおもちゃを引っぱって遊ぶ幼子が描かれていて、「子どもたちが観るかも」と予測していた作品ですが、よく見たのはTくん(0歳9ヶ月)のみ。手を伸ばして鑑賞。

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Tくん(0歳9ヶ月)は女性の大写しの作品の他に、男性が集団で描かれた作品も選んでいました。

『千代田之御表 芝増上寺初御成ノ図』 黒・赤・金の大きな門も注目ポイントです。

浮世絵には世相を反映して「火事」が描かれることがしばしばあり、火事の絵は展示されていると鑑賞会で必ず注目する子がいます。今回は『温故東の花 旧失火之際奥方御立退之図』をTくんが観ていました。これは5章に展示されています。

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5歳のTちゃんが真っ先に気になった『竹のひと節 本朝二十四孝 狐火』
そのTちゃんの姿に興味を持って、0歳9ヶ月の子たちもこの作品を観ました。異年齢で、いろんな子と鑑賞する刺激、いいですね~

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1歳2ヶ月「歩きたい!」という時期の Iくんは、大きくて迫力のある屏風絵『流鏑馬之図』を鑑賞。金地に、馬の黒い脚先とたてがみと尻尾、武者の赤い装束が印象的に映えます。
(  Iくんのお母さんへ:note経由でいただいたお問い合わせに、11/19にお返事しました。11/28にも送信しましたがお返事がないので、届いたかどうか? 不達にはなっていないので、迷惑メールボックスなどチェックしてみてくださいね!NPO法人赤ちゃんからのアートフレンドシップ協会HP「お問い合わせフォーム」でもご連絡いただけます)

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Tちゃん(1歳0ヶ月)は、四角い形が見えてくる、リズムある描写がお好みでした。
『美人囲碁之図』
『やまと風俗 上野清水ヨリ不忍の眺望』
『憲法発布式之図』こちらは5章。

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私は親子対象のワークショップや鑑賞会で、「大きくなったお子さんへ見せてあげてくださいね」と「記録用紙」を用意するようにしています。そこに保護者の方が書いてくださったお子さんの様子を紹介します。「赤ちゃんも、見るんだ!」と安心していただけるでしょうか?!

今回の最年少、Aちゃん(0歳6ヶ月)お母さんより
『雪月花 池水の月』 他の作品は1、2秒見てすぐ視線をずらしたが、この作品はしばらく見ていた。
『千代田大奥 御花見』 じーっと見たあと笑ってた!目をキョロキョロうごかしてた。
『千代田之大奥 元日二度目之御飯』 じーっと見たあとしゃべりはじめてテンションが上がったようで、その後もずっとしゃべっていた。

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2歳7ヶ月、イヤイヤ期ど真ん中のKちゃんは、展示室に入るとソファにある図録に向かいました。お母さんは「絵を見ないの?!」とドキドキ。

大丈夫です!「図録を最後まで見せてあげてくださいね」とお伝えし、その間の付き添いをサポーターの山本久実子さんにお願いしました。(今回も女子美術大学同窓会神奈川支部さんと連携しサポーター活動をご協力いただました)

お母さんから『本が好きなんですねと声かけしていただきほっとしました」とご感想をいただきました。

「赤ちゃんのための鑑賞会」は、連れてくる保護者の方の安心を作ることがとっても大切だと思っています。それがひいては赤ちゃんのためになる。

図録を見終えたKちゃんは、すっくと作品の方へ向かいました。
私と手をつないで回るのも気に入った様子。お母さんに甘えたいけど自立したい、そんな気持ちもある時期ですね。

『流鏑馬之図』 「お馬さーん!」
『千代田之御表 芝増上寺初御成ノ図』 「人がいっぱい!」
『千代田の大奥 狗のくるい』 「わんちゃん見つけてニコニコ」
『千代田之大奥 雛拝見』 「おひなさま見てたー」
(名称は目録通り記載。「の」と「之」の表記があります)

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Eちゃん(0歳9ヶ月)は『文殊菩薩』を「じっとみて、にこ」

『文殊菩薩』は、版画ではなく掛軸、肉筆画です。流れるような衣文、柔らかい雰囲気で、兎が4羽います。0歳9ヶ月だと、これを兎だと理解できなさそうな描写ですが、1,2歳だったら気づくかもしれません。

図録を拝見しますと、この作品は周延の親戚へ、5歳の男児のお祝いの風習「袴着」のお祝いとして描かれたものだそうです。「袴着」は七五三のもととなる風習です。
鑑賞会当日は、奇しくも七五三の日。
その日にこの作品を選んだお子さんがいたのも、おもしろいなと思いました。

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赤ちゃん・小さい子たちのレコメンド作品、いかがでしたか?

今回の鑑賞会に際し、町田市立国際版画美術館HPで「赤ちゃんと美術館へ行く心の準備」となる動画URLをご案内していました。

赤ちゃんとの鑑賞については、ちひろ美術館・東京さんと一緒に制作した動画をがあります。ちひろ美術館さんは、町田市立国際版画美術館HPでの紹介を快くOKしてくださいました。文化庁の助成金で制作された動画です。https://www.youtube.com/watch?v=p2p6eWH6J10

町田市立国際版画美術館学芸員の高野詩織さんと、コロナ禍の2021年、オンライン鑑賞会で作った動画があります。下記、西洋版画の「赤ちゃんレコメンド作品」をご覧いただけます。

Vol.1 https://www.youtube.com/watch?v=_oVWyJkXFcs
Vol.2 https://www.youtube.com/watch?v=PTDZzMAZg-0
Vol.3 https://www.youtube.com/watch?v=9tSsjH4QlqM

幼児~小学生にはこちらをどうぞ。町田市立国際版画美術館さんと制作した動画です。
https://www.youtube.com/watch?v=7CEBWt0eVEU

美術館へ行く前に動画をご覧いただくことで、少しでも安心につながったら嬉しいです。
そして、楊洲周延の圧倒的なエネルギーに触れて、浮世絵の世界をご堪能ください!

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町田市立国際版画美術館 「楊洲周延 明治を描き尽くした浮世絵師」は、12月10日(日)まで開催中です。

http://hanga-museum.jp

(この記事は担当学芸員さんに確認いただいて掲載しております)
(写真は町田市立国際版画美術館さんからご提供いただきました)


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