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大胆で繊細で美しい!今も色褪せない琳派の魅力

今年もアレが始まりました。根津美術館での『燕子花図屏風』の展示です。

尾形光琳『燕子花図屏風』

誰もが一度は見たことがあると思います。江戸時代の画家、尾形光琳の傑作です。

尾形光琳といえば…「琳派」ですよね!

【琳派とは】
安土桃山時代後期から約400年間続いた日本画の流派。本阿弥光悦・俵屋宗達を祖とする。
2人が活躍した約100年後、尾形光琳が発展させ、その後も酒井抱一、鈴木其一などの手により断続的に継承された。

それぞれの画家が先代の画家を私淑(※)しているのが特徴。(実際に師弟関係だった例もあり。)
(※)直接教えを受けるのではなく、勝手にその人を師と仰いで学ぶこと

日本美術の代表ともいえる琳派。時代を超え国を超え、たくさんの人を魅了しつづけています。
みんな大好き琳派の魅力を、私にも語らせてください!

シンプルなのが、かっこいい

さて、琳派の絵ってすごくシンプルです。
さっそく作品を見てみましょう。

俵屋宗達『蔦の細道図屏風』右隻
同左隻
実は左右を入れ替えても繋がるようにできています。

『伊勢物語』の主人公・在原業平たちが宇津山を越える場面を描いたものです。
ですが、肝心の在原業平が描かれていません。というか人物が1人もいませんよね。
のっぺりとした緑の野原に、あとはチョロチョロと蔦があるだけ。
心象風景というか、抽象画にも近い表現です。


ちなみに先ほどの『燕子花図屏風』も『伊勢物語』を題材としています。
作品のテーマは、『伊勢物語』に出てくる和歌「から衣きつつなれにし妻しあれば はるばる来ぬる旅をしぞおもふ 」。
この歌が詠まれた場所が八ツ橋、つまり燕子花の名所だったのです。それを燕子花「だけ」で表すのが粋ですよね。

分かりやすいエッセンスは提示するけど、あとは鑑賞者の想像に任せる、この余裕のある感じがかっこいい!!


また、こちらの『舞楽図屏風』も面白い作品です。

俵屋宗達『舞楽図屏風』

踊り手たちはぽつりぽつりと散らばっていて、一人ひとりの動きがよく見えます。彼らが立っているはずの舞台や地面は省略されており、踊り手たちは宙を舞っているかのようです。
画面に余計なものがないからこそ、舞の躍動感がダイレクトに伝わってきます。

一見バラバラな踊り手たちですが、衣装の色を見てみると、①向かって右端の面(右隻第一扇)に白、②右から2番目(右隻第二扇)に緑、③左から2番目(左隻第一扇)に赤、④左端(左隻第二扇)に青、と整理されています。このさりげない工夫が効いていて、鮮やかなのにスッキリとした画面となっています。


ちなみに、琳派の作品には金屏風のものが多いです。きらびやか&のっぺりとした金の背景に、シンプルな絵柄がぴったりです。

想像以上に大迫力

琳派の作品はシンプルなのにダイナミック!
その秘密は下地の華やかな金銀、そして何より大胆な構図にあります。

まずは、モチーフが対になっている構図を見てみましょう。

俵屋宗達『風神雷神図屛風』
琳派の始祖、俵屋宗達の代表作。
琳派の絵師たちが代々模写した作品です。
酒井抱一『夏秋草図屏風』
尾形光琳の『風神雷神図屏風』(俵屋宗達のを模写したもの)の裏に描かれています。

こういう対称な構図(対立構図)って、よく考えると不自然です。現実にはキレイに左右対称なものとか、鏡のように何かが対峙していることってあんまりないですよね。
そのため対立構図には、画家の下に全てがコントロールされてるような緊張感が漂っています。
それと同時に、左右に同じようなモチーフが配されることで、それぞれの存在感が二重に強調され、力強い印象です。


一方こちらは、モチーフが画面全体に散らばっているものです。

鈴木其一『朝顔』右隻
同左隻

朝顔がなんと150輪!一つのモチーフをコピー&ペーストのように登場させる技法は、琳派が最初に用いたものです。
同じようものがたくさんあるというだけで迫力が出ますよね。
しかもその配置が絶妙!朝顔が地面から生えているのではなく、宙に浮かんでぐわんぐわん回転しているようです。ツルに沿って視線が大きく動き、ダイナミックなリズムが感じられます。


同じく其一の作品で、かなり大胆なものがあります。

鈴木其一『夏秋渓流図屏風』
同右隻
同左隻

画面の端から中央に向かって水が迫ってきます。その流れの激しいこと!画面を飛び出してこちらに溢れてきそうです。
木々がまっすぐな分、水流の斜めの勢いが強調され余計に激しく見えます。
ド派手な色も相まって、インパクトのある見た目です。

細かいところも抜かりなし

大胆で思い切った琳派の作品ですが、細かい部分も見逃せません!
改めて先ほどの『風神雷神図屏風』を見てみましょう。

ここで注目して欲しいのは雲の部分です。


輪郭のないもやもやとした墨。この形がない感じは本物の雲のようです。
絵の具が乾かない内に別の絵の具を重ねることで、にじむような筆致になっています。これは「たらしこみ」という技法で、琳派を中心に用いられました。

「たらしこみ」はいろいろなところで使われています。たとえば、尾形光琳のこちらの作品にも。

尾形光琳『紅白梅図屏風』

独特な水紋に目がいきがちですが、左右の梅に注目です。

たらしこみが使われているのは木の幹のところ。抽象的な花弁に対し、こちらは意外と写実的。
ゴツゴツした木肌に苔むした様子が、たらしこみでリアルに表現されています。


そして、琳派の繊細な描写を楽しめるのがこちらです。

伝俵屋宗雪『四季草花図屏風』右隻
同左隻

屏風いっぱいに花があり、さながらオシャレな壁紙のよう!
ですがよく見ると、葉脈や花びらの一枚一枚まで丁寧に描かれていて、絵師の技が光っています。

華やかで綺麗で繊細な花々たち。装飾的に美しいだけでなく、生きた植物としても魅力的です。

余談ですが

箱根の岡田美術館には、ある琳派の作品をモチーフにしたチョコレートが売られています。

めちゃくちゃお洒落じゃないですか!?

元になったのは、神坂雪佳の『燕子花図屏風』。もちろん、尾形光琳の『燕子花図屏風』からインスピレーションを受けた作品です。
この絵を知らなくても、お店にこんなチョコがあったら目を引きますよね!

今見ても斬新で、かっこよくて、美しい…!
琳派の美意識そのものは、今でも決して色褪せません。

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