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浅葱色の覚書「コドモとオトナの視線が交わる点K。」/アメリカン・スリープオーバー

はじめ

あけまして何もおめでたくない2024でございますが、ことよろであります。職場で「あけましておめでとうございます」言わないと妙な視線を向けられるの、甚だ不本意であるが、初期装備「今年もよろしくお願いします」のみでどうにかやり過ごしています。さて、学生時代を過ごした横浜に逆帰省し、グロすぎる現実から束の間の逃避をすべく映画を観たり、深夜に散歩したり、中国語を勉強し始めた年末年始。いやはや、ステキな映画に出逢えました。その中でも今回は「アメリカン・スリープオーバー(2010)」の感想をば。

あめすり。

なか

"sleepover"とは、所謂「お泊まり会」のことである。とある夏休み(アメリカだと秋から新学年。)、とある街で催されたいくつかのお泊まり会、もとい青春神話を描く。とある男子に恋心を抱くマギー、一目惚れした女の子を追うスコット、ボーイフレンドがいるクラウディア(以上高校生)、そして、高校時代に双子姉妹に恋をし、想いを告げぬまま卒業をした現在大学生のロブ。それぞれ違うスリープオーバーに参加する彼女らの、青春の終わり(≒コドモとオトナの狭間)を描く群像劇なり。


さてはて皆々さんや。

いつ青春は終わるのでしょうか?

高校を卒業したら?10代が終わったら?就職したら?
本作品では、青春の終わりに「キス」を設定している。別に「キスしたら青春終わるやでえ」と言っているわけではない。誰だ、そいつは。
10代はキスへの純粋な憧憬を持っている。つまり、キスとは神話であり、夢である。実際にそれが為される事によって、キスは「神話・夢」でなくなり、色彩を失った青春も幕を下ろす。あるいは、キスをすることによって愛を確かめ合い、新たな一歩を踏み出す(オトナになる)ことで青春は終わる。青春へのケリの付け方としての「キス」であろう。
例えば、一目惚れした女の子を追うスコットは、その女の子とキスをすることで(結局しないけど)恋を終わらせ、且つ本当に愛すべき相手にキスをすることで新たな恋に踏み出す。
ボーイフレンドのいるクラウディアは彼の浮気を知り、その恋を終わらせるためにキスをした。
大学生ロブは高校時代からキスによって自分の本当の想いを確かめることで、引き摺っていた恋に決着をつけて一歩を踏み出した。
どれもキスでもって青春に一区切りをつけている。


そして主人公のマギー。彼女は、「キスでこの貴い青春が終わってしまう」と言う現実に気づいてしまうんですね。好きな男の子に「キスをしよう。」と言われ、幸せで幸せで堪らない。でもキスをしてしまったら、そんな青春が萎びてしまうかもしれない。可能な限り、この青春の、神話の終わりを先に引き延ばしたい。故に彼女は、憧れの男の子とのキスを先に見送ったのだ。

おわり

そういえばネタバレしまくりである。「聞いてないよ!ちゃんと『ネタバレ注意』とか書いておいてよ!」誰だ、そいつは。映画見る前に感想読もうとすんな。
因みにエンドロールで使用されている楽曲は、みんな大好きThe Magnetic Fieldsの"The Saddest Story Ever Told"。名曲。「最も悲しい話」で語られるのは、誰もが心当たりのある切ない思ひ出と、それを置き去りにして年老いてしまうこと。切ねえ。
本作品、視線の描かれ方が本当に秀逸だ。少年少女の視線から、彼らの想いが判り易すぎる程に感じ取れる。その純粋さ、不器用ささえも貴い青春だ。

ついしん:監督のデヴィット・ロバート・ミッチェルは次作「イット・フォローズ」でセックスによって広がる呪いについて描いた。少なからずセックスやキスに対する畏れや怖れを抱いているのだろう。
あと、The Magnetic Fieldsの"The Book of Love"という曲が好きだ。「愛について書かれた本は長くて退屈だ。でも君がそれを読むのが好きだ。」的な歌詞。確か。てえてぇな。


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