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写物語

12
写真とお話。
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AIDUCHI

AIDUCHI

 おはよう。
「おはよー」
 今日も寒いね。
「うん、寒いね」
 ここ寒くない?
「ううん、寒くないよ」
 そっか。私、今来たから、少し暖房入れてもいい?
「うん、いいよ」
 あーあったかい。けっこう冷えてたわ。
「そっかー」
 今日はやる事たくさんあるんだよね。
「そうだね」
 まず銀行行って、あちこち振り込みでしょ。
「うん」
 それから回覧板回して、広報配って。
「うんうん」
 請求書出して

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洗濯機くん

洗濯機くん



僕、ウワーン
洗濯、ウワーン
機です、ウワーン
ちょっと今、ウウーン
脱水中なんで、ウウーン
うまくしゃべれないんですけど、ウウーン
いつもこうして、ワワーン
しっかりお仕事、ワワーン
しております、ワワーン

ブーン、ブーン、ブーン
そうですね。ここの家はだいたい週一で洗濯するので、僕の出番はそれなりですね。

あ、年齢はですね、だいぶ上ですね。もうすっかり古びてしまいましたね。
今はドラム

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薬割りの少女

薬割りの少女



私は薬割り機。いつも薬を割っているの。
なぜ薬を割るのかって? そりゃあ薬を飲む人が飲む量を調節するためよ。
その人のために私は、こう、丸い錠剤を、体の下にはさんで割るの。
これがけっこう大変なのよ。ただ力を入れればいいってわけじゃないの。一息にエイッとやらないと、きれいに半分にはならないの。
でも、勢いよくやりすぎると錠剤を吹っ飛ばしてしまうし、あまり力が足りないとかえって薬が粉々になってし

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恵比寿さんと布袋さん

恵比寿さんと布袋さん



「えべっさん。もしかすると皆、わしらのこと忘れとらんかのう」

「忘れてはおらんじゃろ、布袋さん。なにしろずっとここにおるのじゃから」

「そうかのう。それにしては放っとかれすぎじゃないかのう」

「それは確かにのう。これまで一度も拝まれたこともないしのう」

「まあ、そもそもわしらは七福神じゃし、手を合わせるようなもんでもないがの」

「そうじゃ、縁起担ぎの神としてこうして置かれておるのよ」

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物干し神

物干し神



今日はよく干せているねえ。
ほんとだねえ。
久々に晴れたから気分もいいねえ。
ほんとだねえ。
ほら、もうほとんど乾いてきたよ。
こっちもさ。こっちもよ。
これなら毎日洗濯されてもいいねえ。
毎日はちょっと洗い切れしちゃうねえ。
なら毎日晴れてたらいいねえ。
それはいいねえ。
ほんとうにいいな。
ずーっと晴れてたらいいな。
それじゃあお天道様に祈るとするかねえ。
そうだねえ。
わたしたち一応物干

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拝啓、電子レンジより

拝啓、電子レンジより



だんだんと暑い日が多くなってきましたが、皆様お加減はいかがですか。

わたし、最近トースト機能でパンを焼くと煙が出るんですが、どうしたんでしょうか?
なんだか焦げ臭いにおいがするんですが、何かあったんでしょうか?
もしかして故障ですか?
もう10年以上は使用しているからでしょうか?
経年劣化? 確かにそれは否めませんが。

でも、わたしはまだここにいたい。
つまりはもう少しがんばりたい。
トー

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トゲ

トゲ



指に刺さったトゲです。
まあ、だいたいいつの間にか刺さっていて、いつの間にか抜け、いっそ存在を忘れられてしまうアレです。

昨日まで毛抜きで悪戦苦闘してたくせに、今日にはもうすっかり忘れられている。
切ない。そして、儚い。

たまにふと考えるのです。
わたしはどこから来てどこへ行くのか。
そもそもトゲってなんなのか、なんのトゲなのか。
よく考えるとトゲじゃないかも知れない、そういえばなんか黒い

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白い牛乳

白い牛乳



こんにちは、ふつうの牛乳です。
たまに白牛乳とも言われます。
最近は豆乳に押され気味の、牛乳です。

みんなたいていはそのまま飲みませんよね。
何かに混ぜられたりお料理に使われたりはするけど、直に飲むのは乳くさいからなんかイヤとか言いますよね。

ダメですか、牛のお乳の味は。
そんなにダメですか、まっさらな牛のお乳は。

そりゃあコーヒー牛乳やフルーツ牛乳のほうがおいしいかも知れませんけど。

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ミニテレビくん

ミニテレビくん



僕、昨日壊れたんですよ。
ふつうにサッカーの試合がかかってたんですけどね。

ニュースのときにインターネットにつなげて試合結果見ようとしたら、キャスターの女の人の「それでは」の「では」で突然画面が固まって、そのまま暗くなったんですよ。
もううんともすんとも言わなくなりまして。電源だけがオンオフできる、ただのモニターになりました。

うちの人も、壊れたね、と。
食卓のテレビなくなったね、と。

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虎さん

虎さん



いや、別に好き好んで衝立てになってるんじゃないんですけどね。気がついたらこんなところにいたんですわ。

昔は少しは値が張ったそうなんですけどね、今となっては部屋の片隅で邪魔にされてるしまつです。

わたし、なんなんでしょうね。なんで衝立てに虎なんでしょうね。
ちゃんと考えるとわかんないことって、けっこうありますよね。

とにかく、自分でももうこのままでいいのか、ここから出たいのか、よくわかんな

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インタビュー with ティッシュ

インタビュー with ティッシュ



ティッシュさん、こんにちは。
今日はよろしくお願いします。

「あ、こんにちは。ティッシュにインタビューするとはあなたも斬新なことをする方ですね。まあ、とにかくお願いします」

毎日ティッシュでいるのは大変ですか。

「そりゃそうですよ、皆さんしょっちゅうわたしを引っ張り回しますからね。やれ手が汚れたの、鼻水が出たの、口周りをふくの、ひっきりなしに使われますからね」

やっぱり大変ですよね。

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電話くん

電話くん



ぼくはもうしばらく誰とも話してない。
呼んでも呼んでも誰も答えないからだ。
音を立てても光っても別に誰も気にしない。
そして少し経つとぼくの中から知らない誰かがしゃべりだすのだ。
ただ今留守にしております。
ご用のある方はピーという発信音のあとに。
ピーーーーーーーーーーー。
今日もぼくの体は変な音を出す。
そして何かがプツッと切れたり一方的に声がして終わるのだ。
あーあ、いつになったらぼくは

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