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[推し本]水車小屋のネネ(津村記久子)/ネネのような存在であれたら。

読み終えるのが惜しくなり、読み終えてからも余韻を引きずり、久々に物語の世界に持って行かれて帰ってこれなくなりそうな没入感にはまりました。

とある郊外の町に2人で暮らすことになった姉妹の40年にわたる物語。
18歳と8歳という、はたから見ると訳ありすぎる姉妹に関わる町の人々は、姉妹を気にかけながらも、程良い距離感でそれぞれができる範囲で助け合い、成長するにつれて姉妹もまた誰かに手を差し伸べます。

悪意をもって騙したり陥れるような人はいない。あるとすれば弱い人。そしてたいていの人は基本誰かのために役立ちたいと思っている、と世の中への信頼感を回復できます。

「誰かに親切にしないと、人生は長く退屈なものよ」

決して豊かではないけれども、もたれあうこともなく、コミュニティに束縛せず、入ってくる人あれば出ていく人もいて、そこが嘘くさくなくて温かいのです。

姉妹はお金になることでもならないことでも、とても律儀で働き者なのですが、ちょっとした作業の描写のデティールが素晴らしい。「この世にたやすい仕事はない」の著者ならではか、とも思います。

そして何といっても、人々をつなぐのが水車小屋で飼われているネネという名前の鳥のヨウムの不思議さです。
ネネは鸚鵡返し(正しくはヨウム返しか)に、ユーモラスに、よく喋ります。ネネは自分からどこかに飛んではいかない、でもネネがいるところに自然と人々がやってきて媒体の役割となります。
人知を超えたネネの存在が本作をファンタジーにし、一気に物語の世界に読者を引き込みます。
音楽が好きなネネのためにかけるテープやラジオから流れる曲がそれぞれの時代を反映していてこれも何とも言えず心地よいです。

2024年本屋大賞2位。本当に良い読書体験でした。長く残る作品になると思います。

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