アサヨム

大好きな作家や、深く愛する作品を推してます!人生で迷ったり、つまづいたとき、遅効性でし…

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大好きな作家や、深く愛する作品を推してます!人生で迷ったり、つまづいたとき、遅効性でしっかり長~く効きますよ。 偏愛は須賀敦子、カズオイシグロ、柴崎友香、宮本輝、森田真生、サンテグジュペリ、モンゴメリ、Lisa Genova、Jhumpa Lahiri、大阪もの。

最近の記事

[推し本]スピノザの診察室(夏川草介)/読むクスリ。和菓子ネタにクスリ。

今は京都の町医者、しかし元々大学病院で教授職を嘱望されうる消化器内科で内視鏡手術のプロ、雄町先生が訪問診療先で出会う患者や看取りを通じて、医療とは、を問う作品です。 雄町先生は末期のガン患者には、がんばらなくても良い、ただ、あまり(逝き)急いでもいけないと言います。 病気が治ることが幸福だと言う考え方では病気が治らない人は不幸なままなのかと。たとえ病が治らなくても人は幸せに過ごすことができるはずだ。そのために医者である自分ができる事は何かと考え続けます。 大学病院の時には、

    • [推し本]水車小屋のネネ(津村記久子)/ネネのような存在であれたら。

      読み終えるのが惜しくなり、読み終えてからも余韻を引きずり、久々に物語の世界に持って行かれて帰ってこれなくなりそうな没入感にはまりました。 とある郊外の町に2人で暮らすことになった姉妹の40年にわたる物語。 18歳と8歳という、はたから見ると訳ありすぎる姉妹に関わる町の人々は、姉妹を気にかけながらも、程良い距離感でそれぞれができる範囲で助け合い、成長するにつれて姉妹もまた誰かに手を差し伸べます。 悪意をもって騙したり陥れるような人はいない。あるとすれば弱い人。そしてたいてい

      • [推し本]言語の本質(今井むつみ・秋田喜実)/ただただ凄い衝撃!

        論考の深さに衝撃!!を受けました。これは、言語習得だけにとどまらず、メタで人類を理解することにつながるのでは! 前半の、“ジュージュー”“ぐつぐつ”といったオノマトペとは、から始まり、後半で、ヒトの進化を見据えるこんな広大な水平にたどり着くとは!! 幼児が言語をどう習得するか、というのは、誰しもが自分では覚えていなくても経験していることであり、あるいは身近に幼児がいれば楽しく観察することでしょう。しかし深くそのメカニズムまで考えることはないのでは。 でも、改めて考えると、

        • [推し本]この夏の星を見る(辻村深月)/あの数年は何だったのだろう

          コロナに青春を直撃された中高生のモヤモヤ、もどかしさ、悔しさ、みんなで我慢我慢、と押さえ込まれたエネルギー、、、。 さすが「かがみの狐城」辻村さんならではのティーンの感情の掬い方で、誰を責めても仕方がない状況が切なく、しかし自分たちの手で未来が開かれていく姿に、一筋の光が浮かび上がってきます。 登場人物たちが星の観測をするために空を見上げ、遥か彼方の悠久の宇宙に想いを馳せる時、誰にも邪魔されない自由と解放感があるのがいい。そう、あの時は誰もが、気兼ねなく息をすることも難しかっ

        [推し本]スピノザの診察室(夏川草介)/読むクスリ。和菓子ネタにクスリ。

        • [推し本]水車小屋のネネ(津村記久子)/ネネのような存在であれたら。

        • [推し本]言語の本質(今井むつみ・秋田喜実)/ただただ凄い衝撃!

        • [推し本]この夏の星を見る(辻村深月)/あの数年は何だったのだろう

          [推し本]矛盾と創造(小坂井敏晶)/問うべき問いを模索し続ける

          これまでの「答えのない世界を生きる」や虚構シリーズでは、ガツンと常識を覆す読書体験をしました。 前作「格差という虚構」では、格差は確実にあり原理的になくならないものの、最終章で未来は開けているとあるのが希望でもあり、ただし一種の賭けのようにも思えた点、小坂井さん自身が深く突き詰め直してさらに問うべき問いから思索と論点を洗い直しています。 過去の自著を批判的に振り返って、一旦は解決したと思っていたことのさらに奥底にある問題にたどりつくという粘り強さはどこから来るのか。 本

          [推し本]矛盾と創造(小坂井敏晶)/問うべき問いを模索し続ける

          [推し本]歴史人口学で見た日本(速水融)/人口学ってスリリング!

          2019年に亡くなられた速水融さんは、コロナ禍を予言していたような100年前のスペイン風邪について著作を遺されて話題になりましたが、まだ読んでないのでまずはこれから、、、と思ったらこれが超超面白い!!! 戦後、経済学者の卵としてヨーロッパで遊学したくだりは、なんとも青くて、何でも見てやろう精神全開で、でも会いたかった教授にも会えずズッコケ話の連続で、とてもチャーミングです。 しかしこの時に、後の歴史人口学に繋がる出会いがあり、その後の速水さんの方向性が決まります。 江戸時

          [推し本]歴史人口学で見た日本(速水融)/人口学ってスリリング!

          [推し本]声の地層(瀬尾夏美)/日本のアレクシェーヴィチ

          魂を浄化してくれるような本で、普段使わない(ようにしている)感情の奥底の奥底を揺さぶられてしまいました。 震災やコロナの時代を小さな小さな立場から描いた、柴崎友香の「続きと始まり」とも共鳴しあいます。 1988年生まれの瀬尾さんを媒介として出てくる言葉の一つ一つは押し付けでもなく、美談だけでもなく、悲しくても希望が埋もれていたり、弱いながらも芯があり、民話的な朴訥さとともにじーんと読み手に沁み入ります。 聞かれることがなければ言葉にならなかったことを掬い上げ、耳を傾ける瀬尾

          [推し本]声の地層(瀬尾夏美)/日本のアレクシェーヴィチ

          [推し本]成瀬は信じた道をいく(宮島三奈)/成瀬あかり史から目が離せない

          前作「成瀬は天下をとりにいく」のあと、発売日を心待ちにしていた続編です。 一作目が面白かっただけに、続編がもしつまらなくなってたら残念だわ、、、という一抹の不安など吹っ飛ばされ、あまりの面白さに一晩で読んでしまいました。 自称、大津の主婦の宮島さん、こんな才能をもってこれまでどこで何していたの、とめちゃ気になります。 益々ダイナミックに飄々と逸話を積み上げる成瀬、 愛想もなく我が道を行く成瀬、 自分の有り余る能力を誰かのために、そして大津をアピールするために役立たせたいと行

          [推し本]成瀬は信じた道をいく(宮島三奈)/成瀬あかり史から目が離せない

          [推し本]夜明けを待つ(佐々涼子)/死ぬまで生きてバトンをつないで

          佐々涼子さんは、一昨年の暮れに希少がんを患っていることがわかり、Twitterで体調や入退院の様子も時折発信され、最近はお墓を買ったことも投稿されています。 佐々さんならではの粘り強い取材で、社会の片隅にライトを当てるような仕事をまだまだやっていただきたいですが、それはとても難しいことなのかもしれません。 そんな中出た本作は、これまでの寄稿などを集めたものです。 改めて佐々涼子さんのテーマは、身近なご家族から看取り看護士の話まで、死ぬことに関するものが非常に多く、死にゆく者

          [推し本]夜明けを待つ(佐々涼子)/死ぬまで生きてバトンをつないで

          [推し本]続 窓ぎわのトットちゃん(黒柳徹子)/今また広く読まれてほしい

          かつて、窓ぎわのトットちゃんを読み、電車の車両を教室として使っているトモエ学園に憧れたものです。小学校の窓からチンドン屋さーん!と呼んじゃったり、上下に開く机をパタパタしすぎたり、いろいろあって公立の小学校を退学になり、今でいうフリースクールのようなトモエ学園に入ったトットちゃん。本人としては精いっぱい考えてやらかしちゃう、そんな天真爛漫な子どもを同じ目線で受け止めるご両親やトモエ学園の小林先生、、、ワタクシ小学生のみぎり、大好きで何度も何度も読んで、大阪市の読書感想文コンク

          [推し本]続 窓ぎわのトットちゃん(黒柳徹子)/今また広く読まれてほしい

          [推し本]続きと始まり(柴崎友香)/今は未来でもあり過去でもある

          久々の長編は、これまでの作品をさらに凌いで深みが増す作品でした。 最初の一行目を読むだけで、あの日あの時どこで何をしていたか、個人的な情景がぐわ〜っと記憶の底から立ち上り、心象風景に流れ込んできます。 誰もがその日を覚えていて、同じ映像を記憶して、忘れられないほどの体験をしたはずの震災でも、十数年たつとあの時急激に日常化した非日常も徐々に元に戻り、普段思い返すこともあまりなかったのに。 題名からうすうすそうかなと思っていましたが、ヴィスワヴァ・シンボルスカの「終わりと始ま

          [推し本]続きと始まり(柴崎友香)/今は未来でもあり過去でもある

          [推し本]成瀬は天下を取りにいく(宮島三奈)/ゼゼカラをいつか見たい

          とにかくめちゃめちゃ面白くて元気をもらえる! こういうの待ってた!という、これまでにないヒロインキャラ成瀬の突き抜けた変人ぶり、大津を舞台に滋賀愛が溢れるローカルさ。 2020年8月の、コロナ禍始まってすぐの西武大津店閉店を軸に、中2だった少女が高3になるまでのオムニバスだから実はまだ見ぬ未来まで描いているのです。 少女というイメージからはかなり外れ値な成瀬。 とりあえず勉強はできるし、何をやらせても器用、不愛想なのか生真面目なのか、実験好きなのか(高校3年間で髪がどれだけ伸

          [推し本]成瀬は天下を取りにいく(宮島三奈)/ゼゼカラをいつか見たい

          [推し本]考える脚(荻田泰永)/生き方を楽してアウトソースしようとしない

          無補給で!、単独で!!、徒歩で!!!、北極点を目指すなど常人には想像もつかない挑戦ですが、これは、その挑戦をし続ける荻田さんの著作です。 容赦ない厳しい自然の中では、あらゆるリスクに神経を研ぎ澄ませ、食糧計画、方角の確認、天候の読み、行くか留まるか迂回するか撤退するか、その一瞬一瞬に客観的な事実による冷静な判断と正しい行動ができたものしか生き残れません。 特に北極海は近年の温暖化で、氷が溶けて進めないところがどんどん増えているそうです。数年前は大丈夫だったところが、今は溶けて

          [推し本]考える脚(荻田泰永)/生き方を楽してアウトソースしようとしない

          【推し本】心の傷を癒すということ(安克昌)、そして師の中井久夫

          1995年1月17日の夜明け前、阪神大震災が起こりました。 これは神戸大学附属病院精神科に勤めていた安医師の生前唯一の著作。NHKのドラマにもなりました。 震災が起こる前から精神科医として患者を診ていた安医師ですが、災害下での心的外傷やPTSDからの回復に寄り添う眼差しはひたすら穏やかで温かい。 自然災害は、時・場所・人を選ばない。しかし、その影響は弱者をより追い詰めます。その後の東日本大震災でも、COVIDでも複層的な要因を重ねて心を病んだ人は多かったでしょう。 声にな

          【推し本】心の傷を癒すということ(安克昌)、そして師の中井久夫

          精神科医 中井久夫さんが遺したもの

          最相葉月著「中井久夫 人と仕事」 2022年に亡くなった精神科医中井久夫さんを、長く交友関係があった最相葉月さんが追悼も込めて、その人となりと精神医療への貢献が紹介されています。 日本でPTSDが広く知られるきっかけとなった阪神淡路大震災で、中井さんが神戸大学医学部に勤務されていたことも、「心の傷を癒すということ」を遺した安克昌さんが避難所で心のケアに奔走されていたことも、一介の大学生だった私は同じ地にいながら当時何も知りませんでした。その後相次ぐ天災や社会的犯罪でも、心

          精神科医 中井久夫さんが遺したもの

          [推し本]赤毛のアンシリーズ(モンゴメリ)/100年を超えて少女たちを支える名作

          いまさら、でも、今でも素敵 朝ドラ「花子とアン」のモデルにもなった村岡花子さん訳を読んでからン十年、松本侑子さんの新訳版で久々に読むアンの世界です。 最近も海外ドラマがありましたし、高畑勲・宮崎駿のテレビアニメで懐かしい方もいるのでは? なんと言っても松本侑子さんの調査の賜物の訳注が素晴らし過ぎて、例えばマリラが用意する食事や服の変化からアンへの愛情の深まりを感じさせることとか、宗教的な背景やシェイクスピアからの引用、スコットランド系移民を示す苗字の謎解きなどが奥深く、児

          [推し本]赤毛のアンシリーズ(モンゴメリ)/100年を超えて少女たちを支える名作