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次男、マジック係になる

「ぼく、マジック係になっちゃった。だからお母さん、マジック教えて」

いきなりのお願い。
え?マジック??マジックって、手品のこと?

「うん、そうだよー」

マジック係って、何するの?マジックをクラスのみんなの前でするの?

「うん、たぶんそうだと思う。でもぼく、マジック係になったの初めてだから、よくわかんないんだ」

えーと、(次男)の他にもマジック係さんはいるの?

「いるよ、〇〇くんと◇◇くん」

4年生になり、新しいクラスでの係決めが行われた頃のお話。
マジックが好きで係になったのかと思いきや、3人枠のうち2人決定していて(一緒にやろうぜの2人組)あと1人誰かいませんか?状態の時に、担任の先生に「(次男)くん、やってみない?」と声をかけられたそう。

突如出た「マジック係」に戸惑いながらも、これは面白そうだぞとほくそ笑む私がいた。



マジックと私
長男、次男とで計6年間お世話になった幼稚園では、子どもの誕生月に「おたんじょうび会」なるイベントがあった。

年少、年中、年長の全学年が園のホールに集まって、お誕生日の子たちを壇上にあげて全員でお祝いする。
自分の子が誕生月である保護者も参加することができ、各学年からのかわいい歌のプレゼントや、お誕生日キャンドルに火を灯して吹き消す儀式や、牧師先生からの祝福のメッセージを受ける(キリスト教系の園だった)などを、わが子と共に壇上で体験できるのだ。

保護者はただ列席するだけではない。
おたんじょうび会では、保護者からのプレゼントとして、ちょっとした余興をステージにて披露する。
それは歌だったり、寸劇だったり、子ども達を巻き込んだクイズだったり。
その月ごとに、その月の保護者たちで、事前に相談して内容を決める。

うちの子達はふたりとも2月生まれで、兄弟は3歳違いだったので、私は連続6年間「2月のお誕生日会」を体験した。
2月の保護者の出し物は、マジックだった。
理由は知らないのだが、〝2月の出し物はマジック”ということだけが、歴代2月保護者から延々と受け継がれていた。

園のPTA用備品保管ロッカー内には、歴代の2月の先輩方が残してくれたマジック小道具や、マジックネタ本、BGMの入ったCD、マジシャンらしく見えるようにと用意されたたくさんの大きな蝶ネクタイまであった。

◇◇◇◇◇◇
2月が近づいてくると、子どもを保育室に送り届けた後に保護者で集まり、2~3回練習をした。

マジックとは言っても、とても簡単なもの。
やる人にテクニックが要らないもの。
小さな子ども達がびっくりし過ぎて怖がらないようなもの。
笑えるもの。
遠くからでも見えて、わかりやすいもの。

先輩方が残してくれた、「こんなのが簡単でオススメですよ」の秘伝の書から選んだり、本やネットで調べたり、マジック道具を手作りしたり、わいわい楽しみながら出し物の準備をした。

私がいちばん印象に残っているマジックは「ジュースになあれ」

水の入ったペットボトルが3本ある。
「オレンジジュースが飲みたいな」
1本目の透明な水が入ったペットボトルを振ると、あれれ?水がオレンジジュースになっちゃった。
「次はいちごジュース。甘酸っぱくておいしいな」
「最後はレモンジュース、うーー、酸っぱくておいしいな」
2本目のペットボトルを振ると水が赤くなり、3本目は黄色くなっていく。
「ジュースばっかり飲んでちゃダメだよね。やっぱり青汁飲まないと」
レモンジュースをもう一回振ると、今度はどんどん緑色に。
「青汁になったーー!ごくごくごく、うーーーん、苦いーー!」  
 【会場爆笑】

ペットボトルのキャップ内側に絵具を仕込んでおくだけのことなのだが、年少さんたちは目をきらきらさせて大喜びしてくれる。
3本目の後はさりげなくキャップを交換することが難しいので、二人以上で会話形式にしながら進める。
その会話劇の背後で黒子役がアシストし、そっと青の絵具が内側についたボトルキャップを手渡す。
黄色の色水に青絵具が混じると緑色になるのを利用したマジック。

年長さんたちは「知ってるぅぅぅ!」「あれ、色変わるやつ!」「キャップが怪し〜い」とストーリーとネタ明かしまでわかっている子が大勢いるのだが、それもまたよし。

私が初めて「おたんじょうび会」でこのマジックをした日の夜、4歳の誕生日を迎えたばかりの長男は、

「お母さん、今日すごかったよね!お水がジュースになるなんてー!」

と大絶賛してくれ、家でもう一度やってみてほしいとリクエストされ、彼はその晩色水の入ったペットボトルと一緒に寝た。
今や声変わり途中の生意気ざかりの12歳にも、こんなに純粋で尊い時があったのだ。思い出すと泣けてくる。

そんなわけで、なんちゃってマジシャン歴6年の私が、次男にマジックを伝授することになった。



どんなマジックにするのか、私は悩みに悩んだ。
次男ひとりが、クラスメイト30人の前で行なうと言う。
マジック係は担当曜日が割り当てられ、一人ずつマジックを行うらしい。

失敗率が低く、後ろの席からもよく見えて、インパクトの強いのが良さそう。
子ども達が小学校に行っている間に、YouTubeを見まくって探した。
次男に教えたのはこの二つ。

①コーラの500mlペットボトル(空っぽ)の中に、ボトルキャップが一瞬で入る

②割りばしが一瞬でつぶれる


①も②も道具に仕込みをしておけばいいだけで、本番で失敗する率はかなり低い。そして、一回失敗してしまっても、その場でリトライ出来るもの。

大切なのは、〝演じる”こと。
堂々とすること。
話すときは、大きな声でわかりやすくゆっくりめに話すこと。
自分が楽しいなと思いながらすること。

私が観客役になって、次男がやってみるのを繰り返し、手の位置を注意する。どうしても観客に背をむけてしまうので、観る人のことを考えてごらんと言いながら。
長男にも見せ(長男はすぐに「オレ、わかった~!」とやっている最中から種明かしをし始めたので、兄弟喧嘩勃発)帰宅した夫にも披露。

さらに本番の日は、登校前に家族の前でやってみる徹底ぶり。

「成功しても、失敗しても、堂々とね」
朝、見送りながら声をかけると、

「お母さんも、マジック、失敗したことあった?」

「あった、あったー。もうどうしよう!?ってなったけど、ニコニコしながら『もう一回やりまーす』って言ったことあるよ~~(笑)」

少し安心したような表情になった次男は小道具を携え、登校した。


◇◇◇◇◇◇

「成功したよーーーーー!」

元気に帰ってきた。よかった!
どんなだった?お友達たちの反応は??

おおおーっ!てなった子が半分くらい、無言の子は半分くらい。

そうかそうか、大成功だね、おつかれさま。

帰り道にね、一緒に帰ってきた△△くんにも見せたよ。えっとね、割りばしのは、うおーってなって、ペットボトルはすぐバレた(笑)

歩きマジック、気をつけるのよ。


次男のマジシャンデビューは無事成功したようだが、私の不安はまだ残っている。次回はいつなのだろうか、ということだ。何回かあるらしい。
今回も急に「明日やるんだ」と言い出し、ものすごく焦って探したので。
次回はいつかだけでも、情報が欲しい。

「担任の先生に聞いてみたら?」

夫はさらりと言うのだけれど、聞けないです(笑)。
マジック係さん3名の検討を祈ります。楽しんでほしいです。
そしてこのようなかたちで、卒園後にまたマジックと再会できるとは!
繰り返し練習すること、本番前にドキドキすること、成功した時の会場の反応が嬉しいことを、恥ずかしがり屋の次男と共有して話せることに、私は喜びを感じている。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

※見出し画像は、私の着物(緑色にトランプ柄)と、マジック用小道具の大きめトランプ札(ジョーカー)です。トランプ札は、実物は文庫本くらいの大きさがあります。「おたんじょうび会」で使えるかも?と思い買ったのですが、6年間一度も日の目をみなかった小道具です。ぜひマジック係に使ってもらいたい。




















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