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薄毛,クレッチマー,そして心臓疾患

先日「薄毛の人に特徴的な心理傾向はありますか?」という質問をもらいました。いったい,そういうことはあるのでしょうか。

少し論文を検索して,古い論文でかつストレートなタイトルですが,“Hair loss, personality and attitudes”(薄毛,性格,態度)という1984年発行の論文を見つけました。

この論文です。少し内容を見てみましょう。

目次

・かつら使用者の性格の違い
・クレッチマーの肥満型が薄毛なのは
・クレッチマー説の重要性
・闘士型ではなく力士型
・初期の体格イラスト
・薄毛の形と心臓疾患

かつら使用者の性格の違い

この論文では,「かつら使用者」「かつらを使用していたけれども使わなくなった人」「髪を失うことを心配する人」の3つのグループで,性格や態度の違いを検討しています。かつらを使うかどうか,というところに焦点が当たっているようです。これらのほか,髪の毛に問題を抱えていない男性にも調査が行われています。

髪の毛に問題を抱えた3つのいずれのグループの人たちも,髪の毛に問題を抱えていない男性よりも,高い神経症傾向(N)と精神病質傾向(P)を示すという結果でした。なお,ここで使われている尺度は,イギリスの心理学者アイゼンクのP-E-Nモデルという,外向性,神経症傾向,精神病質傾向の3特性でパーソナリティ全体を捉えるモデルです。全体的に,髪の毛に問題を抱えている男性は情緒不安定的で,衝動性が強い傾向があるということです。

また,かつらの使用をやめたグループは,神経症傾向が強く,自尊心も低い傾向にあったそうです。

髪の毛が失われることは,精神的健康にとってよくなさそうな結果です。

もちろん,これらの結果は「こういう性格だから髪の毛が薄くなる」というものではなく,「髪の毛が薄くなったこと(やその周辺の出来事)への反応」と考えるのが適切でしょう。

また,アメリカに行くと最近は髪の毛が薄いことに対する悪いイメージが以前よりも少なくなってきているようにも思います。時代が変われば,このようなネガティブなイメージは変化していく可能性がありますので,精神的な影響も変わってくることでしょう。

クレッチマーの肥満型が薄毛なのは

話は変わりますが,ドイツの精神医学者クレッチマー(1880-1964)は,体格の研究を行う中で入院患者の診断と体格との関連を見出します。

以前から気になっていたことがあります。たとえば次のページの下の方に,クレッチマー理論の3種類の体格の絵が載っています。

いろいろな心理学のテキストに同じような絵が載っているのですが,たいてい肥満型だけ髪の毛が……と思いませんか?

以前,とあるテキストを書く際に,1944年に発行されたクレッチマーの著書の日本語訳を古本屋で手に入れました(一度はちゃんと読んでおこうと思いまして)。

実は,その本の中にも,いろいろなテキストに描かれているのとほとんど同じ絵が描かれていたのです。そのままの絵がテキストに載っているわけではないのですが,意外ともとの絵に忠実だといいますか,あまり何も考えず髪型も忠実に合わせているといいますか。

クレッチマー説の重要性

クレッチマー説では,細長型が都合失調症の入院患者に多く分裂気質,肥満型が躁うつ病の患者に多く躁うつ気質(循環気質),闘士型はてんかん患者に多くてんかん気質(粘着気質)という,体格と病理,気質の対応になります。

クレッチマー説の重要性は,それまであまり実証的に検討されていなかった人間のタイプを,実際に観察して病理と関連づけ,データを示したという点が大きいように思います。当時の別のテキストでは,クレッチマーがこの説を論文に書いてから10年ほどで数百本引用されたとか。今でいうハイ・インパクト論文です。

ところが,現在の心理学ではこういう1対1の対応づけを行うことはないということになっていて,「歴史的にこういう説がありました」「一般的なイメージとしては根強く残っていますが」「実際にデータをとっても,大きな関連があるとは言えません」などと授業では教わることになります。過去の説が否定されていくのも,学問の一つの姿です。

闘士型ではなく力士型

ちなみに上記の1944年の翻訳書では,闘士型は「力士型」と書かれています。力士型と肥満型と書かれると,どちらがどちらなのかちょっと混乱する……と読みながら思った記憶があります。

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