インスタ映えしない「サバ」がブームな理由

 2018年は、サバ(缶)にとって“脂がのった最旬の一年”だったと言えるのではないでしょうか。

 クックパッドが今年を代表する料理を選ぶ「食トレンド大賞2018」で、「サバ缶」を選び、ぐるなび総研では2018年を代表するグルメとして「今年の一皿」に「鯖さば」を選出。サバは今年、家庭料理としても、外食メニューとしても注目を集め、史上初のダブル受賞を果たしました。

 スーパーの缶詰売り場から、サバ缶が姿を消したという現象を目にした人もいるでしょう。サバ缶に関連するレシピ本は増刷の大号令が鳴りやまないという話も聞きます。
 今年は文句なしの「サバイヤー」。ブームの背景を探ってみましょう。

はじまりは、サバ缶。

「サバブーム」と聞いて、「あのサバが今さらどうして?」と首をかしげた人も少なくないかもしれません。当たり前のように食卓に並んでいたのに、なぜ、今年になって一大ブームを巻き起こしたのでしょうか?

 サバの話題は2011年の東日本大震災以降、じわじわと高まっていました。クックパッドでも「サバ缶」の検索頻度は、12年から13年にかけて2倍に増えています。サバ缶ブームの火種はずっとあったのに、大きなブームに発展できずにいました。「酒の肴」「保存食」というイメージが定着していたからです。

 導火線に火をつけたのは、17年に放送された健康情報番組の「名医とつながる!たけしの家庭の医学」(テレビ朝日系)で、サバ缶が血管の老化を防ぐとして紹介されたレシピでしょう。「魚は体に良い」となんとなく認識されていたものの、具体的な効果を伝えられたことで、サバ缶への関心は急上昇していきました。

 「マツコの知らない世界」(TBS系)でもサバが取り上げられ、全日本さば連合会の池田陽子さん(サバジェンヌ)が登場。健康効果だけでなく、美容効果についても触れたことで、女性視聴者の心を動かしていきます。

 その後、NHKの情報番組「朝イチ」が、サバ缶のレシピを繰り返し紹介しています。こうして、手軽にアレンジできる調理法がお茶の間に浸透していきます。

健康ブームで突出したサバ缶の実力。

 サバ缶が全国規模で話題になったきっかけは、「健康」という視点。そのため、サバ缶に素早い反応を見せたのは、健康に課題を抱えるプレ・シニア世代(55~60歳)でした。 健康に効果があるとされる食品は、食べる理由がはっきりしているため、ブームになりやすい傾向があります。

 とはいえ、健康食品は百花繚乱の時代。
中高年をターゲットとする視聴者の興味をひくために、テレビでは健康にいいとされる食品が次から次へと紹介されています。「玉ねぎヨーグルト」、「菊芋」、海藻類の「アカモク」、「甘酒」、「オリーブオイル」……。「医者が認めた健康食材はコレ!」とうたわれる食材は枚挙に暇いとまがありません。

 なぜ、サバ缶はこのような環境の中で、突出した存在感を際立たせることができたのでしょうか。これこそ、サバ缶の奥深さ、実力と言うことができそうです。

缶詰のイメージを覆したサバ。

 テレビの健康番組などで扱われた話題は、せいぜい1週間程度しか続きません。
 たとえ、体にいいと言われても、同じ食材ばかり繰り返し食べるというのは、現実の生活になじみません。そのうち、別の健康食品が話題になって、いつの間にか忘れ去られてしまうものです。

 ところが、サバは、ゆっくりと、そして着実にファンを増やすことに成功します。 「あれ、サバ缶ってこんなにおいしかったっけ?」 テレビで紹介された健康効果をきっかけに、サバ缶に手を伸ばしたプレ・シニア層は、久しぶりに食べてみて、こんな感想を持った人が多かったようです。

 それは、「味気ない非常食」といった缶詰のイメージを覆すほどだったのです。サバ缶は、青魚特有の脂っぽさや臭みはなく、鶏むね肉のような歯ごたえがあります。味噌汁に入れたり、トマトとあわせたり、カレーなどと組み合わせたりしてみると、サバの魅力はどんどん引き出されていきます。

 「健康のために」と苦行のように我慢して食べるのではなく、サバ缶を使って新しいレシピを編み出す楽しみもできたのです。

主婦の救世主食材、サバ缶。

 健康という視点をきっかけにプレ・シニア層に受け入れられたサバ缶。ここから、快進撃が始まります。
 〈下処理なしで加工済み〉〈後始末も簡単〉という缶詰の特長は、忙しい子育て世代の女性にも支持を得ました。彼女たちがサバ缶を評価した背景の一つには、魚料理へのコンプレックスがあります。

 焼き魚や煮魚といった料理を食卓に並べたいと思いつつ、主婦は魚を敬遠してしまいます。1人一尾だとボリュームも出ない上、ゴミが生臭くなるのが嫌だったり、グリルを洗うのが手間だったりするためです。
 そんな主婦にとって、サバ缶は「大発見食材」だったのです。
 手軽に調理ができて、ボリュームもしっかりあります。野菜類とさっと煮込むだけで、簡単に一品増やすことができます。

2018年のブームは、見た目よりも内面重視。

 食に限らず、ブームというのは、いつも極端に真逆の方向に突き進む傾向が見受けられます。

 例えば、女子高生のソックスの丈のように、ロング丈がトレンドになったかと思えば、その後には極端に短いくるぶし丈になります。安室奈美恵さんのような細い眉がはやったかと思えば、その後、太い眉に回帰しました。
 その理由は、流行しているものに飽きて、新しいものを探そうとするあまり、真逆に着地するという行動なのでしょう。
 ところが、サバはいかにも地味な食材です。缶詰を開けただけでは、写真映えとは無縁の姿です。
 つまり、これまで食のトレンドを作っていた見た目重視の「インスタ映え」から、食材の持つ機能を重視するようになったとも考えられます

食ブームの立役者になったカルディ。

一方、サバ缶には、ここ数年の食トレンドとの共通点もあります。

 パクチーやチョコミントのような「社会的ブームのきっかけ」を追跡していると、ある店の存在に行き着きます。それが、輸入食品や調味料などを扱っている「カルディコーヒーファーム」です。

 サバについても、ヨーロッパの陶器のような缶のパッケージが印象的な「ラ・カンティーヌ」や国産サバのオリーブオイル漬け「Ca va 缶」、カルディのオリジナルサバ缶など、バラエティー豊かなサバ缶を取り扱っています。

 流行をとらえるバイヤーの迅速な対応もさることながら、トレンドに敏感な客がここで目を光らせている様子もうかがえます。

肉食列島、ニッポン。

 魚介類の消費量は2006年に、肉の消費量に追い抜かれました。 それから12年が経過し、日本人の肉食傾向は一層加速しているように思われます。帰宅途中の高校生はコンビニの唐揚げや焼き鳥を手にしています。昨年の「今年の一皿」に選ばれた鶏むね肉は「サラダチキン」などで、若いOLやサラリーマンによく食されています。SNSでは、赤身肉を楽しむグループの写真がアップされています。

 今年、サバがトレンドとして突出した背景には、このように肉食化が当たり前となって、日本人の魚食の機会が減ったという風潮があるのでしょう。地味で当たり前と思われていたサバが、実は縁遠い存在になっているのかもしれません。

 だからこそ、多くの人がサバ缶に熱狂したのでしょう。



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