イノベーションの現場~権威勾配の通用しない世界~

 この記事【最後は喜ばせた者勝ち お笑いもコンサルも結果が全て】は、マッキンゼー・アンド・カンパニーで働いた経験を持つお笑いタレントの石井てる美さんの連載で、今回は「お笑いもコンサルも結果が全て」という事を説いています。一読して思ったのは、同じ事は、商品開発、イノベーションの現場にも通用しそうだ、ということでした。

 まず、この記事の内容を整理してみると――

▶自分のアイデア(ネタ・コンサル)がユーザーに届くまで(大前提) 〇アイデアの良し悪しは、そのアイデアがユーザーに刺さって、ユーザーが驚き・喜び・感動するかどうか、結果が全て。(したがって……)①『そのダメ出し本当か?』・・・周囲の評価は、本当にユーザーの立場を代弁したものか分からず、見当違いの可能性もあり、その評価を取り入れてアイデアを修正するかどうかは慎重な判断が必要。自信喪失してアイデアを撤回してしまう前に、もう一度自分のアイデアに思いを馳せるべき。②『自己責任』・・・周囲の評価を取り入れるにせよ、原案通りで行くにせよ、自分のアイデアの責任は自分にある。③『思い入れの深さは関係ない』・・・そのアイデアにどんなに思い入れがあっても、ユーザーに寄り添ったものでなければ意味はない。④『年次は関係ない』・・・アイデアは結果が全て。当然、アイデアを出した人の年次なども関係ない。新人のアイデアがいきなりヒットする可能性もある。⑤『上司の意見も関係ない』・・・アイデアはユーザーのためのものであり、上司の意見が間違っていると思ったら従う必要はない。

――最も顕著な特徴は、メンバー間の権威の格差『権威勾配』が、ユーザーに刺さるアイデアの選別にとって、全く無意味なばかりか、障害となっている事です。この点は、イノベーションのアイデアが決裁に至る過程にも通用する内容だと思います。イノベーションのアイデアは、権威的かつ多重構造になったリーダーのチェックを通すより、よりユーザーに密着したアジャイルな開発に委ねた方が、ユーザーに刺さるプロダクトに成長することは明らかです。イノベーションな現場のメンバーには、上位者にもはっきりと自分の意見を言うアサーションの力が不可欠なのです。それがないと、せっかくの斬新で尖ったアイデアも日の目を見ずに埋もれてしまうでしょう。

イノベーションなアイデアにとって、ユーザーに寄り添う事がいかに大切なことであるかについては、少し前に出た日経電子版の記事【働くなんて「余暇活動」でいい ボーナスは同じ】(本稿末尾に添付)が参考になります。その骨子は、概ね次のようなものです――

▶第4次産業革命の時代の『会社のあり方』(1)今の時代の消費者の特徴①『情報発信』・・・消費者は、企業より先に行動して、自ら情報発信し、共感した人のコミュニティーが市場を作る。②『コト消費』・・・消費者は、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視する。(2)第4次産業革命の時代の産業の特徴 コモディティ化するモノと、IoTとそれを制御するAIを活用したサービスをパッケージにして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる、製造業のサービス化が進行する時代。●プロダクトアウト=UX(ユーザーエクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI                 =モノ+サービス(モノとサービスの融合)(3)UXデザインの重要性 今の時代のユーザーは、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視しますから、どのようなUXをデザインするか、という事がその商品(モノ・サービス)の質、つまり売れ行きに直結すると言えます。(4)『好きなコトで楽しく働く』ことの意義 UXを最大化するような事を思い付くには、働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、好きなモノ・コトをトコトン突き詰めることが肝心なのです。働く人が心から楽しんでなくて、本当にユーザーを感動させる体験を提供出来るはずがない……働く人がユーザーと同じ夢を、ユーザーの期待以上の夢を見ることが、会社というものの本来のあり方。――(1)今の時代の『会社のあり方』は、『情報発信』と『コト消費』を特徴とする消費者に対応したものでなくてはならない。(2)この『コト消費』に対応するには、第4次産業革命の時代のコアテクノロジーであるIoTやAIなども活用して、(3)UXデザインに力を入れなくてはならない。(4)このUXを最大化するには、何よりも働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、楽しんで夢中になって働くことが肝心である、という考え方です。

 ――つまり、会社で働くことの本来の目的は、人のために役に立つこと、具体的にはUXの最大化であり、そのためには、何よりも働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、楽しんで働くことが肝心である、という事です。この本来の目的にそぐわない作業、仕事の仕方、きつい権威勾配の存在は、イノベーションの阻害要因となってしまうのです。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO34672730Y8A820C1000000?channel=DF210520183830

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO99044530Q6A330C1000000?channel=DF180320167075

https://comemo.io/entries/8718

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