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AI発注の課題と可能性

 コンビニをはじめとした小売り各社が、一斉にAI発注へと舵を切っています。日経新聞電子版をざっと見ただけでも、次に掲げたような記事が目に飛び込んできます。


 
 AIが発注に関与する、発注すべき商品とその数量を提案してくるという事は、使う側、発注者にとっては、当然そのAIの能力が気になってくるところではないでしょうか。AI=発注の神様ではない訳で、AIだからと言って無条件に信じることはできません。
 そのAIの能力、レベルを決定付けるのは、そのAIがどんなアルゴリズムで作動しているかという事を別にすれば、そのAIが学習に使っているデータであることは間違いありません。どんなデータをどんな形で取り込んでいるかが重要なのです。

 「どんなデータをどんな形で取り込んでいるか」、人間の場合なら、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)で脳に電極を埋め込むなどの最先端のケースを除けば、文字通り五感が頼りです。逆に言うと五感があることこそが強みであるとも言えます。
 例えば、人間なら、客動線やお客が商品を手に取ったり、ためらったりといった行動を観察して、発注や売場作りに活用できますが、AIの場合はどうでしょう……

(1)もしAIが売場に多数設置されたカメラ等と連動していないような簡易なシステム、AIに五感に相当する機能が与えられていないようなシステムであれば、AIが提案してくる発注はすべて基本的にはPOSデータ、つまり結果に基づいた提案である、という事になります。

 このようなAI発注のシステムでは、一部の店舗で特定の商品の売上が跳ね上がっている、というデータが蓄積して初めて、それを学習したAIが発注提案してくるのです。つまり、誰か「これは売れる」と売れ筋を発見するスキルに長けた現場担当者がその商品を大きく展開してくれないと、AIは発注提案できないのです。あくまで人間が、優秀な発注者が先です
 本当は顧客に刺さるすばらしい商品があるのに現場担当者が誰も気付かなければ、AIが他社での動向を公式に発表された情報の中から見付けてきでもしない限り、そのまま埋もれてしまうことになります。
 もちろん、たとえそうであっても、後追いであっても隠れていた売れ筋をAIの提案で拡大することの意味はあります。ですが、ペンシル型のライフサイクルが多い昨今、ちょっと後手に回るともうその商品が発注できない、といったようなリスクは避けられないでしょう。

(2)さらに五感ということで言うなら、AIには舌(味)も鼻(におい・香り)も耳(ASMR・咀嚼音)もないので、たとえ発注提案出来たとしても、その理由、売れてる理由までは分からない、という事です。

 発注者は、「あれ、AI何でこの商品を10ケースも提案してくるんだろう?」と頭を悩ますことになります。この点から直ちに導き出せる事は……

(3)一つには、AI発注のシステムはブラックボックスであってはならない、いたずらに発注提案で発注者を悩ませ余計な時間をとってしまうような事態を避けるためにも、提案理由を開示できるホワイトボックス型でなくてはならない、という事です。

 発注に使うタブレットに提案理由が簡単でもいいので表示されれば、AI発注システムへの発注者の信頼性、そして発注のスピードはグンと高まるはずです。

(4)二つには、AI発注システムはインタラクティブ(双方向性)であってはじめてその実力を発揮できる、という事ではないでしょうか。

 見えない売れ筋を見い出して発注量を一気に増やした優秀な発注者が、AIと会話して発注を増やした、発注を変えた理由を伝えられるようなUI(ユーザー・インターフェース)を構築できれば、AIにはない人間の五感という強みでデータがアップグレードされて(=AIが発注者の五感を通して売り場を見れるようになる)、AI発注システムの精度は飛躍的に向上するはずです。 
 こうして見てくると、もしAI発注システムがPOSデータと先行情報(天気・地域与件・催事等)を基盤としたデータドリブンに偏ったものであるとするなら、そこに(五感の強みを持った人間である)発注者という顧客接点を十分に活用した、カスタマードリブンな視点を取り入れることのできるインタラクティブなシステムを構築することによって、発注の精度は著しく上がっていくのではないか、と想像されます。重要なことは、データドリブンとカスタマードリブンが結合することによって産まれる化学反応、核融合なのです


 そうでなければ、データドリブンに偏ってしかもブラックボックスのままのAI発注システムでは、残念ながら、熟練のスキルのある、AIの力を借りずとも自分でPDCAサイクルを回せる、単品管理のできる発注者には「うざい」(=AIの提案数量をいちいち修正しなくてはならない、細かく見なくてもいい商品までAIがいじってないかチェックしなくてはならない、など)ままの存在となってしまうかも知れません。例えば、AIが品切れ防止に力点を置いたアルゴリズムで動いていたなら、それと分かるほどに在庫が増え、狭いコンビニの店舗での作業効率を落としてしまうことになります。発注者にはそれを避けるためにAI提案数量の減修正、ゼロ修正をするという余計な作業が発生します。
 この点などから、各社がAI発注の導入に躍起となる中で見落とされがちな重要な事が一つ浮かび上がってきます……

(5)発注のスキルは小売に携わる者にとって最も大切なスキルの一つである!
① AIに教えられた発注をただただ機械的に実行に移して、たとえ売上が上がっても本当の意味での達成感は得られない……
② AIに頼った発注をしていて発注のスキルを磨くことはできるのか?
③ 発注者の全体的なレベルを下げてしまいはしないか?
④ 商売で一番面白いものの一つ、発注をAIに任せていいのか?
⑤ 発注に時間をかけるのは良いことである(売場・接客をおろそかにしない限りにおいて)!!



 本稿は決してAI発注システムの否定論ではなく、あえて言うなら懐疑論です。AI発注システム開闢期の今現在ほどAI発注の問題点、課題を洗い出し、議論して、AI発注をブラッシュアップしていくのに大切な時はないと考えます。AI発注システムの開発者、そしてAI発注を提供する側である、例えばコンビニのフランチャイザーにはここで論じてきたような疑問、課題に答えていく義務と責任がありそうです。

 


 
 


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