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こんなふうに教えたい・教わりたい

 社会人になると自分の仕事の進捗状況だとか結果を上司へと報告しフィードバックや次の指示を受けるような場面がよくあります。特に私は製造業の会社に勤めているので自分の作った物を人に見せてその良し悪しの判断を仰ぐことが入社以来毎日のようにありました。自分の作る物とは工場で加工される部品であったりデスクワークで作成する資料であったり様々です。

 そういったことを何度も繰り返して、自分が人を育てる側になったときに気をつけようと思うことというのがかなりはっきりしてきました。それらをここに書いておこうと思います。

1. 良し悪しの基準を定量的に明示する

 これが基本中の基本です。

 部品の加工であれば担当する工程で満たさなければいけない寸法値・形状・外観等について正確に且つ具体的な条件が示されています。基本的にそれは設計図にも書かれていることなので明確ですが、実際には明示し切れていない暗黙のルールだとか言葉にしにくいノウハウもあります。

 それに決まった形のない抽象的なタスクになると、それを部下に任せる側の人間がそもそも必要な事柄を詳細に把握していない場合が往々にしてあります。例えば報告を上げるにしても予め十分に作り込まれたフォーマットがあってそこに必要事項を記入するだけならば曖昧さはあまりありませんが、そうはならないことが多いです。

 良し悪しの基準に曖昧さがあるとしばしば自信を持てない状態で判定を下すことになり、下手するとその時々の気分にすら左右されてしまいます。(ダメな)上長はそれでも平気な顔をしますが、部下はなんとなく勘付いて不信感を募らせてしまいます。

 これは本来あるべき姿ではありません。やはり全ての良し悪しの基準を具体的な数値か、客観的にイエス・ノー(True or False)で判別できる条件として示すのが理想です。そのためにはまず教える側、指示を出す側がタスクの内容とその難しさを理解しておく必要があります。私自身が責任の大きな立場につくときにはそれができるように、現在は自主的に基準となる項目のリストを作る習慣をつけて準備しているところです。

2. 代わりにやってしまうときには違いをなるべく分かりやすく説明しながら手本を見せる

 現場の仕事で、特に経験が浅い間はしばしば満足の行く出来栄えにならなくて途中で先輩がその仕事を代行してしまうことがあります。

 単なる研修ならば進捗が全くなくても直ちに業務に支障をきたすことはなく、OJTでも時間がたっぷりあれば一からやり直すことも考えられます。しかし一般的に仕事には納期があり、大抵はその後も予定が立て込んでいるので遅れを生じさせないことが優先されます。そうすると新人のやるべきことを教育係が代行するようなこともあります。

 それ自体は仕方のないことです。これが日程だけの問題ではなく、その前にした説明が上手く伝わらなくてもう一度やって見せなければいけないケースも現実にはあるわけですから。

 ただしここで一つ留意しておくべきことがあると思っています。それは丁寧で的確なフィードバックをすることです。

 一度やらせてみたタスクを代わりにやってしまうということは、その前に一通り教えているはずです。それが伝わり切らなかったか、基礎的なテクニックが足りなかったために上手くできなかったわけですね。

 その場合には第一に改めて手本を見せて対比することで「何が間違っていて正しくはどうすべきか」を明確にすることが必要であると思います。これがフィードバックの丁寧さです。そして既に理解してできている部分について繰り返し話していてはくどくて話が長くなり、集中して聞いてもらえない確率が上がってしまうので急所に絞って比較するようにします。これがフィードバックの的確さです。

 そのようにする必要があると私が感じているのは、そうでもしないと教わる側が辛いと思うからです。考えてみてください。自分のしたことがリセットされて他人が全てやり直したとして、結局何が良くなかったか分からないまま次に進んでしまったらどう感じるか。きっと困惑するでしょう。自分のしたことが無意味だったとか、自分自身が無能だとも感じるかもしれません。

 そういったことが何度も続けば苦手意識が募るばかりで、やがて仕事が嫌になりかねません。現にそうやって辞めていく人も中にはいますし、続けたとしても一人前の職業人としての自覚や責任感が育ちにくいと思います。

 もちろんそのときに教わる側が的確な質問をして疑問を解消したり技を見て盗んだりできれば問題ありませんが、生まれてから受けてきた教育ゆえそのような能力が身についていない人が多いのが現実です。私自身もそうでした

 少なくとも教える側が十分な説明をしないでも新人が勝手に見て仕事を覚えてくれることを期待すべきではありません。いくらでも働き手がいて、たくさん採用して誰か一人が残ればいいなんていう贅沢が成り立つのでない限りはそうだと思います。

 もちろん私の言う「丁寧で的確なフィードバック」を限られた時間の中で行うのも簡単なことではありません。それを可能にするためにはまずやはり教える側が必要なスキルとタスクの内容に精通することが必須ですが、それだけでなく時間に余裕があるうちに出来栄えを確かめてフィードバックする習慣が必要になります。

 習熟者よりも時間のかかる新人が作業を一からやり直していては間に合わないような時間になって初めて進捗状況を見るようでは、仮に上手くいっていなかった場合には説明を完全に省略して全て代行せざるを得なくなってしまいます。

 そうではなくなるべく早いタイミングで一度確認を入れて間違っているところが見つかれば修正するようにすれば効果的にスキルを伸ばすことができるし、お互いに無駄な苦労をしないで済みます。

3. 努力によっていい結果が出たらそれによって自分が助けられたことを伝える

 先ほどのフィードバックの仕方の件は上手くいかなかった場合の話でしたが、今度は上手くできた場合についてです。先に言ってしまうと上記のnoteで書いたのと同じ主張です。

 人間には承認欲求があるので、自分が努力してやったことを評価されれば嬉しくなってもっと頑張りたくなります。しかし私は基本的に他人の努力を褒めるのは難しいと考えていて、結果を褒めようとしても頑張りを褒めようとしても言われた側にとって評価してほしいのは「そこじゃない」ことが案外多いように思います。それに褒めるという行為自体に上から目線の要素が含まれやすくて成人した人にとってはあまり嬉しくないかもしれません。

 だから仕事が上手くできたなら褒めるのではなく感謝の言葉で報いるのが吉かと個人的には考えています。ここで言いたいことは先ほどの『感謝を伝えること』にそのまま書いてありますので自己引用します。

あなたに手伝ってもらえて助かった。
あなたの作ってくれたものが役に立った。
あなたが教えてくれたことが参考になった。

「あなたのしてくれた事が・作った物が・教えてくれた情報がどうだった」という3人称の言い方ではなく、「それらのおかげで自分がどうなったか」の1人称の文にするのがポイントです。たとえ同じ出来事について同じ内容を伝えるにしてもこれらの言い方の違いはなかなか大きいと思います。

「あなたがいてくれたおかげで助かった」との意味の事を言うとき、そこに評価を下す意図は含まれません。そのため言われた側にとってはそう言ってもらえるだけで自分のした事の意味を感じることができます。

 こうすればもっと頑張ろうとだろうと思うのです。少なくとも私は仕事で自分のしたことに対して「良くできたね」と言われるよりも「助かったよ」と言われる方が嬉しいしもっと頑張りたいという意欲が湧きます。むしろ「良くできたね」のように褒められると、それで良くも悪くも満足して終わるような気もします。

 こうした場面でさっと感謝の言葉を述べるためには、そもそも人に感謝できるくらいに精神的に安定・充足していなければなりません。先ほどの丁寧で的確なフィードバックのために時間の余裕が必要であったように、感謝を伝えるためには心のゆとりが必要であると思います。人に仕事を教える者、人の上に立つ者が焦っていてはその役目が務まりません。

(※ 正直に言えば仕事の対価として金銭的に報われれば尚良いところですが、前提として同じ会社内での社員同士のコミュニケーションを考えているので最適解は言葉のかけ方に限られます。)

4. まとめ

 私が仕事を教えたり人を育てたりする役割を担うとしたらどうしたいか、そのことについてここまで書いてきたことは以下のようにまとめられます。

(1) 良し悪しの基準を定量的に明示したい。そのためにまず教える側、指示を出す側としてタスクの内容とその難しさを理解しておく必要がある。
(2) 代わりにやってしまうときには違いをなるべく分かりやすく説明しながら手本を見せるようにしたい。そのために時間に余裕があるうちに出来栄えを確かめてフィードバックする必要がある。
(3) 努力によっていい結果が出たらそれによって自分が助けられたことを伝えたい。そのために人に感謝できるくらいに精神的に安定・充足する必要がある。

 今はこれらをただ心構えとして準備しているだけです。そしてその根本には過去にした反省があります。それは簡単に言うと次のような話で、詳しくは下記のnoteに書きました。

 自分のした努力が実らなかったことを一つの結果として受け入れるしかなくても、せめて言葉で報いて欲しかった。そう思っていたけれど実は逆に私がそう思われるケースもまたあり得るのだと気付いた。

 またこれに関連する内容として技術系の職種の個人スキルについて考察したことがあります。それが下記のnoteです。個人的には本投稿とこれとで仕事に関する考えがかなり整理できました。

 本投稿の内容を興味深い、または参考になったと思っていただけたならばこちらも面白いだろうと思います。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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