【藤原道兼の絶望、底つきと希望】 光る君へ 第十五話

遅ればせながら、光る君への第十五話を視聴した。

道兼が自暴自棄になるさまが他人事とは思えなかったので、それらについて書いていく。

いや、ほんっっっっっとうに他人事ではない。
正直、道兼のシーンは全アダルトチルドレン必見だと思う。なんだこの解像度の高さは。

まず、道兼が関白にしてもらえなかったことをきっかけに出仕しなくなったのは、これまでの自己犠牲が報われなかった、つまり無意味だったと気づき、その虚しさで、なにかがぷつんと切れてしまったからである。
ACでない方にもわかるように書くと、「給料(親からの愛と承認)の後払いを信じて、希望するキャリアを犠牲にして長年働いてちゃんと業績を上げたのに、無賃のままリストラされました」みたいな衝撃である。

彼が求めていたのが「関白の位」という形での「父から愛された・承認された」という実感である以上、「内大臣でも十分じゃん」なんて慰めは完全にお門違いなのである。

さて。序盤、道兼が公任の家に入り浸るシーン。

道兼〜〜〜!わかるよ!!!!!
これまでずっと、お父ちゃんに受け入れられたくて、父が求める形に自分を合わせるために、自分を抑圧して抑圧して頑張ってきたんだよな。
本当は殺人とかしたくなくても、汚れ役を果たさないと父に存在を認めてもらえない、転じて殺人を犯さざるを得ない状況では、「人は虫ケラ」とでも思わないとやってられないよな。

このときの道兼の気持ちは、
「どうして俺は自分の在りたいあり方を殺してまで兼家に尽くしてきたのに、なんの見返りもないの?ずっとずっと、こんなに我慢して苦しい思いをしてきたのに、どうして嫌われたり捨てられたりばかりでいいことがなにもないの?
ってところだろう。

ああ…わかる、わかるぞ…!手に取るようにわかる。
ちなみにこれは外傷的な養育を受けてきた人間なら誰でもわかる話だと思う。

道兼を縛っていた父・兼家が亡くなったところで、道兼のこれまでの生き方の全ての軸は「兼家の意に沿うように」というものであった。
もう心も体もそれに固定されてしまっているものだから、「もう好きになさってよいのです」と言われたところで、「もう本来俺は何が好きだったのか忘れてしまったんだよ、今更遅いよ、もうどうすればいいのかわからないんだよ」にしかならないのである。
彼には「これから」を作る土台となる「これまで」がないのだ。

あああああああああああ!!!
道兼はまず三森みさ先生の漫画を読んで「俺、ACじゃね?トラウマ治療、効くんじゃね?」って思ってくれ!
そんで心理士につながってトラウマ治療を受けてくれ。SEとかIFSとかを扱っている、熟練した心理士のところだ!

三森先生の漫画はこちら。

話を戻そう。

父亡きあと、迷惑な顔をされても、「俺に尽くすと言ったよな?」の一言で公任ハウスに入り浸る道兼。
その背景にあるのは、「こんなに一方的に辛い思いに耐えてきたんだから誰か俺に報いてよ、ずっと無条件で意に沿わない奉仕をさせられてきたぶん、俺にも無条件で奉仕してよ、そうじゃないと俺はただ無意味に苦しい思いをしてきたことになる、こんなのってないよ」という気持ちだ。

これも…正直、非常〜〜〜〜によくわかる。
難しいのは、これは本人が我慢すればなんとかなる問題ではないということ。
すでに本人が抑圧に抑圧を重ねてきた状態である以上、その代償としての「誰かに甘えたい」という気持ちを無理やり押さえつけたところで根深い歪みが消えるわけではない。抑うつなり自傷なり依存症なり原因不明の体調不良なり、別の形で問題が噴出することになる。
これは性格や我慢の問題ではない。適切な治療を受けることが必要な状態なのだ。

道長が道兼を迎えに来たときの、「こんなことして迷惑かけて、情けない……」って感情が道長の顔に出ていて、観ていてちょっとつらい。
…え、すごい。無理解からさらに道兼を傷つけるんじゃないかってけっこうハラハラしながら観ていたが、一方的に否定することなく、道兼の気持ちを受け止めながら自分の気持ちも伝えている。説教じゃなくて、ちゃんと対話してる。やるなあ!!

「私は、兄上にこの世で幸せになっていただきとうございます」
「この道長が、お支えいたします」

道長〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!

正直、一瞬、ケアに命をかけてるわけでもないシロウトの手に負えるんか?って思っちゃった…でも、「全てを失って、自暴自棄になって、これ以上ないところまで堕ちてしまった俺」を真っ直ぐ見据えて、支えるよって言ってくれてありがとう。
生きる場所があるとも思えない、って力なく言った道兼に、「ありまする!!!」って断言してくれてありがとう。
最後はこちらまで救われた気がして、泣いてしまった。

さて、ここまで拗らせてしまった道兼を専門職なしで支えるのはたぶんめっっっっっちゃ大変だけど、自分ができることとできないことをしっかり伝えて支えてあげてくれ。無理して合わせてあげても共倒れになるだけだから、ちゃんとできることとできないことをはじめに伝えておくんやぞ。
それで、たまにお兄ちゃんが幼少期好きだった遊びとか一緒にしてあげてくれ。道長、頼むぞ。

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