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「怪物」

監督:是枝裕和
制作国:日本
製作年・上映時間:2023年 125min
キャスト:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、田中裕子

 「大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
 それは、よくある子供同士のケンカに見た。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。
 そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。
          *公式ホームページより

 公開から一か月半が過ぎ、館内はそれほど込み合っていずぺアー組よりも一人で来た人が9割の印象だった。今回、私もその一人鑑賞側。
 是枝監督で足を運んできた人だろうか、脚本家坂元裕二氏に惹かれて、それとも、音楽の坂本龍一氏?と上映待ち時間にふと考えた。私は、坂元氏と坂本氏と田中裕子氏に惹かれ館内に座っている。
 最初、是枝作品に田中裕子氏がキャスティングされることが不思議だったが、そこに脚本家坂元氏の名があって流れが読めたようで納得する。

校長室で対面

 ある日、玄関に片方だけのシューズが転がる。別の日、水筒から出るべきものではない物がこぼれる。そして、息子は多くを語らず担任に手を挙げられたとだけ母親に告げた場合、大半の親は真相を知りたい筈。
 作品では多少デフォルメ感は拭えず安藤サクラ演じる母親早織はモンスターペアレンツに映っても仕方ない演出ではある。
 早織が聞きたかったのは教員の謝罪ではなく、背景や事実の真実性であったのだがその簡単なことの筈が職員らに届かない。親が求めることが穏便に済ませることでも蓋をすることでもないことは周知のこと、すれ違う親と職員室。

いじめが行われている教室

 導入としての一幕は重い始まりだった。
 一方、一幕の無能を絵にしたような担任の描かれ方に対して、母親が知らない日常としての担任の戦場である教室を中心とした学校場面では、永山瑛太演じる担任保利の精神的に追い込まれるような苦悩が描かれていく。

 事実として目の前に展開することはその姿をその後状況や流れで変えることはない、片方だけの靴は時間が経過しても揃うことはなく片方のままだ。
 しかし、母親が息子の片方だけの靴を見ていじめに遭った被害者側との迷いない結論の導き方も、実は尚早過ぎる。
 小学生の児童に詳らかに状況説明を求めることは不可能だ。まして、俯瞰的な客観的な事実はおとなでも伝えることは難しい。
 一日の大半を過ごす教室という外界から遮断された世界は、そこに監視カメラの設置がない限りは事実は中々見え辛い。*決してカメラ設置賛成ではない

心を許す友と

 三幕、種明かしのように描かれる当事者の子ら。
 厳しい現実に立ち向かうにはあまりに幼いながら、健気に健闘していくふたりの姿。

校長と

 悩む子の傍に、親でも担任でもない大人が寄り添うことでどれほど子らは救われるか。しあわせの意味を、苦しさを和らげる一方法を教える校長の表情が校長室の彼女とは別人のように柔和だ。

湊のこころに向く伏見校長

 田中裕子氏の表情は、相変わらず能面のように射す光と共にどのようにも違う面を見せていく。静かながら圧巻の演技が随所に見られる。

秘密基地

 作品タイトル「怪物」、ミステリー要素を含んだ予告、「怪物誰だ:ゲーム」に引きずられて怪物探しになる必要なく、これからの方は登場人物らを静かにご覧ください。エンドクレジットに川村元気の名を見て、この観終わった後の違和感が理解できた。

 とても生き辛い世の中なのね、と総合感想。
 
 作品内の森の中で感じる木漏れ日や木の葉から滴るようなピアノの音に癒されました。

 
☆☆☆


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