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スコープ少年の不思議な旅

■ 感想

「スコープ少年の不思議な旅」(文)巌谷國士(作品)桑原弘明(風濤社)P112

外も内も精巧な桑原さんのスコープ作品を、巌谷さんの美しい導きで巡る愉楽の旅。小さな箱に内包された丸い世界は空間を自在に広げ、伸ばし、部屋の表情や季節をも変えていく。

四角い視覚の世界で小さな存在となった自分を体感するワンダーランドは、未視と既視が渾然一体となった小さな宇宙のように不思議で、覗く度に幾通りもの時間が流れ、物語は勝手に動き出す。

窓から見える広大な外界は箱の中に広がる無限を思わせるが、窓の内にも外にも人間は存在せず、そこにいるのは動物と植物、家具や道具たち。小さなひそひそ声が聞こえてきそうで耳を澄ませても、異界の私の元にその音は届かない。それでも目を凝らし、耳を澄ませ、開かれた窓から広がる果てしない思考の旅に想いを巡らせる至福。

一番のお気に入りは、グザヴィエ・フォルヌレの肖像写真の掛かった「黒い男」の窓。夜に包まれた仄暗い部屋に灯るオレンジ色の小さなキャンドル。いつも修道僧のように黒服を着て暮らし、自身の著書も黒一色を纏わせたグザヴィエの重く浅い呼吸を感じるようで息を飲む。

スコープ少年とは、彼のことであり、私のことであり、あなた自身のことであるという。世界を拡大して見るスコープの筒の先に嵌め込まれたレンズから去っていった誰かの影は、他ならぬ自分自身だったと夢想する合わせ鏡のような箱は、押絵の少女が見る耽美な夢のよう。

■ 漂流図書

■天体会議/長野まゆみ

12月に国書刊行会さんから刊行される、長野まゆみさんと桑原さんの新刊「湖畔地図製作社」。

長野さんのサラサラと美しい音を奏でるような物語と、桑原さんのスコープの世界がどう融合していくのかとても愉しみ!

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