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短歌もらいましたⅡ✧♡

 穂村弘さんの「短歌ください」の1冊目を読んだ。早速、心に響いた歌をもらっちゃおう。穂村さんの解説は太字で。細字は私の感想。

逢うたびに君の葬儀の挨拶を考えながら覗く横顔

駒沢 直・女

 恋のさなかに「君」の死を夢想するなんて。(中略)ふたりの関係性の最終地点を想うことが愛の証でもあるのでしょう。
 
年齢が無いので、これはある程度、年のいった人の歌か?と私は思ったが、短歌のテーマが「恋愛」。たしかに、これは私も想像するけれど、ごくたまにだ。恋愛している時の、いつもいつもの切迫性はない。

カーナビが「目的地です」というたびに僕らは笑った涙が出るほど

晴家 渡・男・26歳

 2人にしかわからない物語。その過去の楽しさが眩しくて、切ない。

君に「好き」と言わせし昨日の顔のまま彫刻となり飾られていたい

mmm・女・23歳

 女性、大共感の一首。その日の自分が一番綺麗だと知っている。

おにぎりを三個持たせる母が言う余れば誰かに差し上げなさい

ヒボユキ・男・44歳

 独特の懐かしさのある歌。確かに「母」ってそういうことを云うものでしたね。
 
母に会いたい(⋈◍>◡<◍)。✧♡

ビンボーな爺の話に興奮し まったく眠らぬ息子よ眠れ

ザみえこまん・女・35歳

「ビンボーな爺の話」ってところに意外性=リアリティがあります。これは一見矛盾するようだけど、意外じゃないとリアルに感じないんだよね。

ボーケンする王の話に興奮し まったく眠らぬ息子よ眠れ

「ボーケンする王の話」に興奮する方がありそうなのに、なぜかこれではリアリティを感じない。

ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる

冬野きりん・女・18歳

 一読してくらくらしましたと穂村さん。
 女の子の我がままで鋭い感性がナイフのように尖ってカッコいい歌。

今顔が新種の猫になっててもいいや歩道の白だけ歩く

小林 晶・女・26歳

 文句なく好きだな、さっきのペガサスの歌と共に。
「顔が新種の猫」になるという切れ味が見事です。特に「新種」ってところに怖さがある。この歌の背後には、世界からはみ出して自分だけのルールを生きる〈私〉の自負とナルシシズムがあるようです。

とびだしたクリームパンのクリームを舐めとるくらいの気持ちでいる朝

いさご・女・19歳

 私は若い女の子たちの無敵な歌が好きみたいだ。「高校生の名言」っていう本に、「かわいい子には元気がある」という名言があったけど、そんな若い女の子たちの歌が、3首続いたように思う。

悪魔でも召喚できてしまいそう スクランブル交差点の陣

中森つん・女・24歳

 この歌からはハロウィンの渋谷しか浮かばない。ああ、やっぱりと思ってしまう。あの、交差点はそうなんだ。

白玉の歯にしみとほる秋の世の酒はしづかに飲むべかりけり

若山牧水

 やたら高感度の歌だと思ったら穂村さんが引用した歌でした笑。
 絶対、この酒は、日本酒。ホンモノの歌人は凄いわ笑。

広場にて酔いつぶれ寝る女らをまたいで歩く塾帰りの子

ロンゴロンゴ・男・28歳

 4年制大学を卒業した女子は高学歴の男と結婚し、高卒の女子は、高卒の男子と結婚し、そこから生活水準の格差ができるという新書を読んでびっくりしたことがあるが、言われてみるとそうかもしれない。酔いつぶれて寝る女らと、勉強する子らとの将来の生活水準格差を想像できる。
 ひたすら未来に向かって進むロボットっぽくていいですね。彼らの目には「酔いつぶれ寝る女ら」も単なる障害物にみえているのでしょう。

爪を噛むあなたの顔は獣じみ こわくてやめてと言えないでいる

オスヘイ・男・19歳

 好きな女の子の癖の中に垣間見えた獣じみた表情だろうか?
「獣」に言葉は届かないからね。夢中で噛んでいるうちに、本能剝き出しの表情になってしまう。ちょっとした「癖」の奥に社会や他者から隔絶された巨大な闇が広がっている様子が生々しく表現されています。

世の中に見捨てられたと思ってただけど便座は暖かかった

蛙・女・29歳

 生きるおかしみが感じられて、好きな歌。便座まで暖かい日本。優しい国だと思う。その優しさが、我々をダメにしているかもしれないけど。

「動物と人間のちがい何ですか?」倫理のテストにすごい嘘書く

ゆり・女・19歳

「すごい嘘」ってどんな「嘘」だろう。でも「嘘」=人間だけのもの。そう考えると、どんな「嘘」を書いたにしろ、それは正解だと思います。

完璧な死体と夏が誤解するほど僕たちは抱き合っていた

木下侑介・男・25歳

 あまりにも完璧な抱擁=「死体」という見立てが意外でありつつ、美しい説得力を感じさせます。愛と若さの頂点で人は何故か死に近づく、という逆説は、詩の真理のひとつであるようです。
 穂村さんの解説も美しい。私はこういう小説の一節のようなひりひりした歌がスキなのだと実感する。自分が失ったものへの郷愁だろうか?

ヴォリュームをゼロに落としたラジオから一番好きな歌が聴こえた

わだたかし・男

 見るために目を閉じる。聴くために「ヴォリュームをゼロ」にする。詩の中では世界の法則が反転するらしい。
 好きな曲はみんなそんな風に聴こえてくる。 

靴たちのそれはそれは美しく並ぶ彼岸の玄関にいる

陣崎草子・女・31歳

 お盆とかお正月とか彼岸とかの風景が好きになってきた。
 霊もぎっしり詰めかけているのかもと穂村さん。

豆たちはくつくつ笑う気にしない「ゆでられている」という現状

原田・女

 最後の2首は、スコシ大人の印象。
 若い子たちの鋭く尖ったナイフのような感性もいいけど、何気ない風景の、面白い捉え方が静かなオトナを感じさせて好きだ。

 さて、二十歳を3回生きた私は、どんな歌を詠むのだろう?