強引にことを進めようとすると、反発が起こる。例えそれが正しくとも、誰も付いてこない。
嘘はいけないことだが、大きな声で注意すればされた方は逃げるし、
不倫はいけないことだが、責めると不倫をやった方であるにもかかわらずいなくなる。

だから、無理矢理ではなく、自然と理想の状況を作らなければならない。ここで大切なのは、正しいことではない。
……………
転職してから４ヶ月間、私は打ち合わせに入れてもらえなかった。好き嫌い構わず、仕事なのだから入れるべきとの正論で責めたら崩壊する。また堪えずにタイミングを待たなければ、一層立場が悪くなるから、私は時を待った。
４ヶ月間に及ぶ理不尽な扱いに耐えることは、容易くなかった。

目標シートの提出依頼が来た時にここだと思った。
「沢山言い分もあると思いますし、私のことを嫌いだと思います。ただそれでも打ち合わせに入れてもらえないことは辛いので、会議に入れてもらうことを１番の目標にしたい。」と書いた。
普通は書かないだろう。管理職であるからには、部下の育成が最重要の中、「仲間外れにしないで」と言っているのだから。
しかし、働く環境を作るためには、ここでこの様に伝えるしか無いと思った。
………………
目標シートの打ち合わせに急遽、偉い人３人が集まることになった。そして皆が私の目標を読み上げる。
隣りにいる偉い人が「辛い」との言葉に笑い過ぎて、顔を伏せている。
「辛いとか書いちゃいけない。」
と。私も耐えられずに笑った。会社に入って初めて笑った。別の偉い人に、
「好かれるようにしなきゃ。」
と言われた。だから私は、
「嫌われているのは平気なんです。」
と答えた。
１０代２０代で私は、「人と距離が近いから好意を持たれるのは仕方ない」と言われ、好かない人に好かれてしまい大分、疲れてきた。だから他人のご機嫌伺いはしないし、愛想を振りまくことはしない。そして好かれたい願望は持ち合わせなくなってしまった。「冷たい」と言われるくらいが楽なのだ。
しかし、事情を知らない偉い人は嫌われることに恐れがない態度に吹き出した。私も大笑いしてしまった。
「好かれなきゃ、輪に入れてもらえないよ。」
と言われる。だから、
「では、『私のことを好きになって』とお伝えしてみます！」
と立ち上がった。皆、笑い過ぎて顔を真っ赤にして、
「待て待て待て待て。」
と言う。
……………
目標シートの打ち合わせはこうして終わった。
結局、何も決まらなかったし、どうにもならなかったが、深刻な状況な雰囲気とはならなかった。
それがとても良かった。
………………
翌朝、私を外していた人からメールが届いた。仲立契約書のチェックお願いします。と。
偉い人からメールが届いた。契約書を通じての教育をやってみてと。

「打ち合わせに入れろ」との権利主張は一度もせずに「お願いします」と頭を下げ続けてきたことが、少しだけ届いたのかもしれない。
いずれにしろここから能力が試され始める。それでもやっとスタートに立たせてもらえたことが有り難い。

だから、今日をありがとうの気持ちの備忘録として残すことにした。