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外国人に価値観を学ばせる意味

ドイツの社会統合コースに通うのは、非常に多様な人材。そんなクラスメイトと一緒に学んでいると、その価値観の違いにとても驚かされることが多々ある。(そういうことを経験すると、このごった煮のクラスで学ぶチャンスを得られたことにとても感謝の気持ちを覚える)

兄弟について授業で話した時に、10人以上兄弟がいるというクラスメイトが何人か居て驚いた。トルコの田舎出身のクルド人だったり、シリアやイランの田舎、はたまた欧州と中東の境にあるグルジアからやってきた人たち。アラブの価値観では子どもが多いほど良いとされる。イスラム系の女性は10代で結婚していることも珍しくないし、4人くらい子どもがいたりする。一夫多妻制を許容するアラブ国の出身者には、兄弟に妻が何人かいるという人もいる。 

また、特に男性優位で知られる南アジアや中東出身の女性たちと自分の感覚の差に驚かされる。ともに学ぶ女性たちの一部は、自国で大学も卒業して居て、おそらくいい家庭の出身なのだろうなということも想像できるものの、何年も欧米に住んでいても仕事をするなんて考えられないと平気で発言する。母親たちも家庭に入って、家のことをやり、子育てに専念して居たから、自分も同じようにするものだと考えているそうだ。(今まで私が出会ってきた南アジアの女性などは、非常にキャリア志向の強い人が多かったので、その差に驚かされる)

…たった20人強のクラスでこんなに驚かされるのだとすると、ドイツに入国した難民・移民の価値観が幅の広さは想像に難くない。


民主主義、法治国家、自由主義を掲げるドイツは、このように多様な価値観を持った移民の統合に苦労したことから、今ではドイツの社会、政治体制等について学ぶコースを移民向けに提供している。私が受けている社会統合コースで、半年のドイツ語学習(日常会話で求められるB1まで)が終わった後に4週間授業が提供され、テストが行われる(移民がドイツ国籍を取得する際に、この試験に合格していることが必要になる)

私も社会統合コースの最後にこのコースを受けることになった。

オリエンテーションコースと言われる、このコースの構成は主に3つに分かれており、現代ドイツについて非常に簡単に俯瞰できるようになっている。(短時間なので元々の知識がないと理解は難しいと思われ、単語やそれが何かをを覚える程度か…各分野イントロ程度)

1. ドイツの政治体制の仕組み(民主主義・連邦制・法治国家・権利国家)、人の権利と義務
2. ドイツの現代史(第二次世界大戦直前のヒトラーの時代からその後の発展まで)
3. ドイツの社会と価値観(宗教の自由、寛容、男女平等、個人の尊重など)


要は、ドイツという国は何を経験したからこそ、何を目指していて、だからこそ何が法で重視され、規制され、国の制度が出来ているのか、どんな権利や考えが重視されているから、生活レベルで何が重視されているのか、ということを教えるような内容であった。

簡単にいうと、いわゆる日本の中学の公民の授業のようなやつで、非常に浅く広範囲を扱って社会と政治について学んだ。私はドイツの政治体制などについては今回きちんと勉強して非常に参考になったが、まあ今まで欧州に住んで自由主義の価値観の中にいて、ニュースや本を読んでいる私には特に目新しい感じではなかった。

しかし、前述の私が大きく差を感じさせられるような価値観(配偶者が複数いる男性、男性や親が絶対優位な社会で妻子を殴ってもいいと思う人、などなど…) そういう大きく価値観の社会から来た人には新出事項が多かったかもしれない。十分な時間は持てなかったけれど、まだ多くの国でタブーとされるLGBTについても扱われていた。

テスト問題にも、ドイツでは配偶者を同時に複数持てないという解答、子どもを殴ったら子どもを取り上げられるという解答の問題があった(テストは、あらかじめ与えられた300問の中から出題される)


価値観は簡単に変わるものではないにせよ、こういうコースで一通り学び、ドイツが何を目指しているのかということを移民が学ばさせられるというのは意味があると思う。

これまで多様な国に住んでみた自分自身を振り返っても、価値観や考え方が少しずつ変わっていくことはあっても、外国に住んでもそれほどその国の価値観や生活習慣に浸かることはあまりないように感じる。

あまりに価値観の違う人を放置すると、下手をすると、その国と自分の価値観の差を思い知らされて、考えを頑なに拒否し、より元の社会の価値観を強めてしまうこともあるのかもしれない。

だからこそ、私が受けているような社会統合コースがあって、そう言う相容れない考えを持つ移民の価値観を少しでもドイツの方向性に向けさせようとする動きがあるのだろう。

簡単ではないけれど、少しずつチャレンジして、積み重ねていくことが大事なのだと思う。

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