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セロリ新左衛門

セロリとか茗荷とか独特の香や風味がある野菜が食べられるようになった時が大人になった時かもしれないと思いつつ、最近は忘れられた存在となりつつある頓智名人を妄想した記録。


材料

セロリ      2本
ヤリイカ     5杯
オイスターソース 大匙2
豆板醤      小匙1
生姜       半欠け
大蒜       2欠け

映画「首」を見たことを少し前に書きました。↓

登場人物の中に曾呂利新左衛門。甲賀の元忍びで芸人を目指している男。
「日本一の出世男にお仕えしたい」ということで秀吉の所にやって来る。
しかし、結局は忍びの技や人脈を買われて使われることに。
劇中、賭博でイカサマをやっている場面があったので、それに因んでイカと合わせてみることにしました。


大蒜と生姜を摺り下ろす。

曾呂利新左衛門という人物、実在していたと言われます。
ただ、元忍びではなく堺の商人。秀吉に仕えた時期も信長が生きていた頃ではなく、秀吉が京や大坂にいた天下人時代。
元々は鞘師だった。
刀を納める鞘ですが、朴の木を削って二つ合わせて製作。新左衛門が作った鞘は出来がよく如何なる刀を納めても、ソロリと納まったということから、通り名が曾呂利新左衛門。


商人らしく人当たりよく話術が巧み。茶道や華道、和歌等の文化面でも造詣が深いということから、秀吉のお伽衆に選ばれる。
お伽衆というのは大名等の傍に侍り、話しや遊興の相手をする役目。
頭の回転が速く、話も面白いということから落語家の元祖とも言われています。
秀吉との面白い逸話が幾つか伝わる。


セロリをぶつ切り。

「何か欲しい物はないか」と秀吉が訊ねると、
「殿下のお耳の匂いを嗅ぎとうございます」と曽呂利。
奇妙な頼みと思いつつも許可。
諸大名が居並ぶ席にて、曽呂利は口元を扇子で隠しながら秀吉の耳元に近づいて匂いを嗅ぐ。
その様子は曽呂利が何事かを秀吉に耳打ちしているように見える。
それを見た徳川家康、曽呂利に気に入られれば秀吉によく報告してくれるだろうと、家臣の鳥居元忠に命じて曽呂利の屋敷に付け届け。
他の大名もそれに倣い、曽呂利の屋敷には大量の贈り物が届いた。


摺り下ろした大蒜と生姜を炒める。香が立つまで。

また褒美を貰えるとなった時、曽呂利は
「明日から米を一粒、二日目には二粒、三日目には倍の四粒と倍々で100日下さい」と所望。
「欲のない奴だ」とばかりに秀吉は快諾。
ところが、日が進む内に文字通り倍々ゲームで増えていくと、30日後には5億3000万粒。どの位の量かというと200俵。現代の度量衡だと12トン。
途中で気付いた秀吉は慌てて、別の褒美に代えてくれと泣きを入れた。
数学の知識や計算が得意でないとわかり辛い話。


セロリの茎、イカを投入。

似た話で、袋に入るだけの米を下さいと言われた秀吉が快諾すると、曽呂利は蔵が七つも入りそうな大きな袋をわざわざ作らせて持って来たとか。
これは最初の話をわかりやすく翻案したものでしょう。

秀吉の御前で放屁した曽呂利、秀吉に笏で頭を張られると、
「おならして、国二つ得たりけり、頭はりま(播磨)に尻びっちゅう(備中)」と咄嗟に狂歌。


セロリの葉、オイスターソース、豆板醤投入。

天下人になってからの秀吉、横暴で残忍な話が多く、暴君と化したような逸話が多い。例えば甥の秀次と妻妾たちを全員、斬首とか。
しかし曽呂利との話には暗さがなく、ユーモラス。
秀吉にこうあって欲しかったという願望が投影されているのではないか。或いは力では敵わない天下人を頓智でやりこめる話で溜飲を下げていた?


いい感じになってきた。

「皆が儂を猿に似ていると言っている」と秀吉が言うと、
「それは猿の方が殿下の御威光をお慕いして、殿下の真似をしているのです」と曽呂利。
暴君化した秀吉に猿の話題などタブーと思いますが、こんな話が伝わるというのも、秀吉という天下人に寛容であって欲しいという願望の投影ではないか。


セロリ新左衛門

セロリの苦みを豆板醤とオイスターソースを合わせた甘辛味がベストマッチ。
炒めたイカの柔らか感、セロリのシャキシャキ感と二つの食感が楽しめる。
イカから良質なタンパク質。含まれているタウリンには心臓や肝臓強化、視力回復、高血圧予防等の効果が期待出来る。
セロリの独特な香には精神安定や頭痛の緩和効果。唯一無二の風味は伊達ではない。

落語家の祖とも言われる曾呂利新左衛門ですが、二代目が存在。
つまり落語家の名跡になっているのです。
二代目曽呂利新左衛門は江戸時代後期に誕生して、明治、大正の頃に活躍した上方落語家。
その死後、継承する者がなく、落語家としての曽呂利新左衛門は空き名跡。

ふと妄想。
映画「首」の世界線ではエンドロールの後、天下人になった秀吉に元忍びの曽呂利新左衛門によく似た人物がお伽衆として仕えるようになる。
「お前、昔、俺が使った忍びの新左衛門によく似ているなあ、その名前を継げ」
と命じられて、こちらでも二代目の曾呂利新左衛門が誕生した?
そんな妄想を楽しみつつ、セロリ新左衛門をご馳走様でした。

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