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【旅エッセイ59】日本最南端の駅、西大山

「一番」というのは印象に残りやすい。日本の最北端、日本の最南端、日本一の山に日本一の川。すべてを答えられる人も多いと思う。

 もし県外や国外から観光客を呼び込もうとするなら「日本で一番」を売りにするだろうし、旅の目的地に選ぶとしても「日本で一番」の場所があるのならそこを選びたくなる。

 今日の写真もそんな「一番」のある、西大山駅。
 場所は鹿児島県の指宿(いぶすき)市。
 西大山駅は「日本最南端」の駅。

 正確に書くと2003年に沖縄にも駅ができたので、その時に日本最南端の駅という称号は奪われた。それからは「日本最南端のJRの駅」という苦肉の策で一番を謳っている。写真に写った看板にも「日本最南端の駅」の上に小さく「JR」と書き足されているのが見える。

 西大山駅はあたりには田んぼしかない小さな無人駅で、駅のホームからは鹿児島の誇る名山、開聞岳(かいもんだけ)が大きく見える。
 
 駅には観光の人たちも居て、ホームや看板、開聞岳の写真を撮っていた。鉄道ファンなのか美しい景色のファンなのか、それとも私のように日本一の看板に釣られて訪れただけの人だろうか。彼らに並んで、私もホームで開聞岳を撮影する。

 もし西大山駅が日本最南端の駅ではなく二番目、三番目に南だったら。日本最南端の駅として売り出されることはなく、私はこの場所を知ることもなく訪れる機会もきっとなかった。この景色を見ることができたのは、西大山駅が日本で一番南であることを必死に売りにしていたから。

「一番」だから有名で、二番だったら売りにできず、知られる機会もない。なんだかそれは悲しいことだ。

 たとえば音楽。ランキングで一位、コンテストで一位、総選挙で一位。そうやって一位になると大々的に売り出されるけれど、二位やそれ以下はあまり注目されない。なんだって同じ。直木賞や芥川賞を獲った小説は注目される。新人賞で落ちた作品は誰の目にも止まらない。甲子園で競い合う球児の青春は応援されても、地方大会の一回戦で負けた高校生の気持ちを誰も知ろうとはしない。

 本当は一番なんて看板がなくたって優れたモノはたくさんある。一番の売りが何もない駅だって、美しい景色の眺められるところはたくさんある。もしも自分の目ですべての景色を確かめられたら、その中で「一番」を自分で判断できるのに。

 一番の看板がなくたって、この美しい景色は変わらない。



また新しい山に登ります。